2.地球惑星科学5分野の夢ロードマップ



(1)宇宙惑星科学の夢ロードマップ

 宇宙惑星科学分野のサイエンスの大目標は、人類活動を内包する「太陽地球惑星の現状の把握」から、数10億年を超える時間スケールを持つ「惑星系形成の仕組みの解明」、生命誕生に関わる「生命居住可能天体の探索」、さらに宇宙における「生命を育む環境の普遍的理解」に及ぶ(図参照)。これらは、顕微鏡レベルのミクロなスケールを扱うものから惑星間空間・惑星系・星間雲といったマクロのスケールを扱うものまで、多面的な研究に支えられている。探査・観測、室内実験・物質分析、数値シミュレーションなど多岐の手法による研究を束ねる意味で、飛翔体プロジェクトは基軸的な意義を持つ。宇宙からの観測に長ける本分野は、技術提供面からも他分野と密な連携が期待される。

(i)現在の地球惑星の営み

 太陽から電磁波放射と共に太陽風という形で運ばれるエネルギーや物質は、地球惑星の磁場や大気と相互作用し、様々な現象と変動をもたらす。こうした太陽から地球惑星大気に至る動的システムの理解のために、地球周辺の宇宙空間では、内部磁気圏の宇宙環境解明のトップランナーであるArase、太陽風と磁気圏の相互作用をX線を用いて可視化するGEO-X、探査衛星編隊を用いたFACTORSが、その複雑な動態を立体的に明らかにする。これら宇宙プラズマ現象と地表と繋がった中性大気現象の両方が交差する中層大気に対しては、SMILES-2が大気成分ごとの挙動を詳かにする。定常的な多点地上計測が可能な利点をもつ地球については、衛星観測とあわせて長期観測データをアーカイブし、宇宙天気・宇宙気候研究の基盤とする。
さらに多様な惑星を調査し、太陽系外の惑星も含めた統一的普遍的に理解を目指す。金星探査機Akatsukiは、金星大気の長期観測に挑む。水星探査機BepiComlomboは厚い大気を持たない惑星の磁気圏と太陽風の相互作用を詳らかにする。火星宇宙天気・気候・水環境探査は、太陽活動がもたらす大気散逸過程を解明し、火星の長期寒冷化の原因と過程を追究する。地上/気球/地球周回望遠鏡による、継続的な高品質の惑星モニター(観測継続中の紫外線望遠鏡衛星Hisakiなど)にも力を注ぎ、惑星探査をバックアップする。もちろん、太陽そのものの理解も欠かせない。太陽観測計画Solar-C EUVSTやPhoENiXは、地球気候に影響を及ぼしうる太陽活動の変動を監視する意義も有する。

(ii)惑星形成の仕組みの解明

 自然科学全体の究極の目的とも言える宇宙と生命の誕生と進化の解明に、天文学、地球科学と生命科学を架橋する宇宙惑星科学は果たす役割は大きい。かぐや、はやぶさ、あかつき、はやぶさ2の経験を経て、日本は米欧に比肩する太陽系探査の遂行能力を備えつつある。今後20年程度のスパンの太陽系探査においては、太陽系における生命生存可能環境の形成と進化の探求が第一の科学目標となる。
 はやぶさの拓いた小惑星探査を、はやぶさ2(炭素質小惑星Ryuguの近接観測・サンプルリターン)、小型深宇宙探査技術実証機Destiny+ (流星群母天体小惑星Phaethonをフライバイ観測)、ソーラー電力セイル探査機OKEANOS(外惑星系小惑星の直接探査)が、発展的にリレーする。また彗星からのサンプルリターンを目指すNASAのCAESAR計画に冷蔵帰還カプセルを提供しつつ参加する。これらの探査のデータ解析と帰還試料の地上分析、相補的な理論的・実験的研究の展開により、惑星材料物質、特に生命とそれを育む表層環境に必須な水と揮発性物質の起源、運搬天体の構造と組成、初期太陽系における物質輸送、始原天体上での有機物進化の解明を進める。
 火星衛星からのサンプルターンを目指す火星衛星探査計画MMXは、日本の小天体探査の強みを伸ばし、衛星を母惑星の形成過程の記録媒体として位置づける独自の切り口から、生命居住可能惑星の成立過程の解明に迫る。この計画は、生命居住可能環境を持つとされる火星の探査に、日本が再挑戦する嚆矢でもある。火星表層環境の長期進化に迫る火星宇宙天気・気候・水環境探査とは目的面で対をなす。
 精密月着陸小型実証機SLIM、月極域の地下氷を直接調査する月極域軟着陸探査 (国外と共同)、月無人サンプルリターン計画HERACLES(ESA主導)、月ペネトレータ探査は、重力天体探査高度技術の実証によって人類の活動圏の月への再拡大と火星への拡張の先鞭となるだけでなく、月の形成と進化の理解に新たな光を当て、母惑星地球の成り立ちの理解を深める。これらの着陸技術や表層探査技術は、地下生命圏の探索等からなる、火星プログラム探査に応用する。
Bepi-Colomboは、地球との近縁性を持つ水星の物質科学も進め、揮発性物質の初期内惑星系への輸送に迫る。日本が複数の機器提供を行う木星巨大衛星ガニメデを周回探査するJUICE (ESA主導)は、氷衛星の内部海における生命の存在可能性を解明する。

(iii)生命を育む環境の普遍的理解へ

 帰還試料から物質進化情報を最大限に引き出すため、高解像度同位体顕微鏡、超微小非破壊分析装置、宇宙物質分析パイプラインを開発・整備する。探査データの予測、観測・分析結果の多角的解釈、実験室では再現不可能な重力多体系や星間雲・原始惑星系円盤・大気・天体内部など、巨視系の構造と時間発展を再現する最高性能の数値計算システムを整備する。ALMAや次世代望遠鏡等による系外惑星系の観測的研究の知見も交え、生命を育む環境の宇宙における普遍性の理解を進める。
 日本が機器提供を行うWSO-UV (ロシア) など新規の宇宙望遠鏡計画により、系外惑星系の分光観測から、系外惑星大気の特徴づけを行い、生命居住可能性を明らかにする。観測対象を飛躍的に増やすことで、第二の地球の発見に挑む。

(iv)持続可能な世界(人間と社会)の実現

 衛星を用いた通信や測位システムの社会応用に代表されるように、人類の宇宙環境への依存度は高まっている。宇宙利用技術の安定性や精度は電離圏擾乱に左右されるため、その把握と予測精度の向上が求められる。躍進の目覚ましい超小型衛星は大気抵抗が大きく、軌道を予測し有効な運用を行うには、太陽・地磁気活動に依存する高精度大気モデルを必要とする。衛星寿命を左右する宇宙放射線の強度予測も、重要課題である。宇宙工学分野との密接な協力関係を築き、これらの問題を解決する。
 地球環境・気候変動の解明と予測には、人間活動や地球の持つ内部的な要因に加え、太陽活動などの外部要因も考慮しなければならない。その中には、隕石落下や突発的な天体現象など人類の生存を脅かしうる事象も潜在する。地球生命環境変動の全球高精度監視に本分野の培った技術を応用するとともに、大気水圏科学や天文学との協力によりこれらの理解と把握を進める。

(v)共同研究システムの構築

 研究および社会貢献を持続的に発展させるため、魅力ある基軸プロジェクトの立案と練り上げ、そのために必要な知見やデータのアーカイブと活用、国際共同研究の主導、人材育成、アウトリーチ、産学協力、さらに次世代のワークライフバランスの確保を有機的に進めることも、本分野の重要課題である。そのために機関間連携を促進するコンソーシアム体制を築き、これらを実現する。 



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