大気水圏科学セクション
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セクションの紹介
1. 概要
大気水圏科学では人間と大半の生物が生存する地球表層系の科学を扱っています。その活動と将来の展望について紹介します。本セクションは、地球の大気と海洋や陸域水圏からなる地球表層系を対象とする科学分野です。そのなかで起こる物理・化学・生物・地学にかかわる個々の過程と、各圏の相互作用の研究が重要な研究分野です。
2. 大気水圏科学セクションとは
本セクションは、地球の大気と海洋や陸域水圏からなる地球表層系を対象とする科学分野です。そのなかで起こる物理・化学・生物にかかわる個々の過程と、各圏の相互作用の研究が重要な研究分野です。
大気水圏科学は、地球惑星科学の他分野と同様に、自然現象の理解という純粋理学的な側面と様々な環境問題や災害などに対応するための応用科学的側面を併せ持っています。この両側面に関わる研究は相互に影響し合いながら発展してきました。例えば、大規模な自然災害をもたらす台風や集中豪雨は、社会ニーズに応える形で研究が行われてきましたが、その根本的理解には、対流現象や湿潤大気の物理学を発展させる必要もありました。一方、大気海洋に卓越するロスビー波や重力波は、純粋理学としての研究が先行しましたが、短期気象予報や中長期気候予測に関する現象としての研究も盛んとなりました。同様に,地下水を水資源として利用したい社会的ニーズからは,井戸周辺の地下水の動態についての研究が求められましたが、研究の進展に伴い,地下水を流域の水循環の一部としてとらえることが適切であると認識されるようになりました。また、温泉水は観光資源としての活用ばかりでなく、地下内部の地球科学的情報を得ることにも役立ちます。一方,水循環の研究は理学的観点から研究が進められてきましたが、現在では水環境の悪化を懸念する社会から,健全な水循環の形成という観点での研究も求められるようになっています。
3. 関連分野の最近の進展 現在の大気水圏科学は、地球環境に最も大きく関わる分野として、一層その研究領域を広げつつあります。社会ニーズにも支えられ、エアロゾルや大気化学、植生等の生態系や氷床を含む陸面過程、地球表面の7割を占める海洋と大気の相互作用、海洋内部まで至る人間活動をも含む地球温暖化現象・炭素循環・窒素循環,熱循環など様々な汚染物質の輸送や蓄積などの問題などが、重要な分野として急速に発展してきました。我々の理解が深まるにつれて、それら個々の現象は非常に強い相互作用を持っていることが明らかになってきました。そのために個々の現象のより良い理解と予測問題の解決のために、「大気・水圏システム」や「気候システム」を大きく超えた「地球システム」として捉える研究が発展しつつあります。その意味では、理学と工学・人間圏と社会経済に関わる接点も重要になってきており、フューチャーアースなどに象徴されるような多圏複合的な研究を益々推進する必要があります。このような大気水圏科学の研究における我が国の現状は、世界的にみても高いレベルにあると言えます。その背景には、現象をミクロからマクロまでシームレスに捉えるための、広域の地上や海洋の現場観測網の整備と維持、高精度の大型地上測器や衛星観測の発展や,同位体地球科学の発展で可能となった過去から現在の様々な現象の履歴情報の取得や年代解明の寄与がありました。そして、その空間的,時間的連関を定量的に理解するためのモデリング技術、データ解析技術、そして、それらを支える大規模計算機技術の発展も重要な背景です。また、その多くは、国内と国際の学術組織が主導する数々の共同研究計画の中で組織的に行われています。持続性社会の実現とその将来予測のため、大気水圏科学の担う役割は益々重要になることは世界的な研究動向と各国の支援体制を見ても明らかです。我が国では、「地球シミュレータ」や「京速コンピュータ」の始動による温暖化現象の研究を初めとする気候モデリングの発展が著しく、超高解像度の全球非静力大気モデルのような、世界をリードする研究が生まれています。このような我が国が得意とする計算科学・技術に根ざした大気水圏科学研究は今後も大きく発展するポテンシャルを持っています。
4. セクションの今後
今後は、比較的脆弱な広範囲に高精度で密な持続的観測的研究、および観測結果をモデルに取り込むデータ解析研究を、一層増進する必要があります。そのためには、気候・海洋・水文・生態系をよりきめ細かくモニターするための現場観測ネットワークの充実、地球観測衛星の一層の整備が必要です。このような観測体制の整備とモデル研究を統合することによって、大気と海洋が活発に相互作用する熱帯域と、観測データが乏しいが限定的であるが、今後、全球規模の影響を及ぼすと考えられる極域の双方における研究を推進する必要があります。また、全球的な視点のみではなく、地域特有の現象の理解も重要です。特にアジア地域は多様な環境条件下にあり、そこで生起する現象が人間活動にも大きな影響を及ぼしているのです。以上のような観点からは,大気化学、雲と対流、エネルギー収支や生態系を含む陸面過程,洪水や竜巻などの極端事象、地下構造や環境、そして陸域と海洋が接する沿岸地域の観測体制の整備とそのモデル化が重要です。温暖化や大気汚染に伴う対流圏の変化と、それとは異なるより上層の大気の変化、および上下結合の研究も引き続き行う必要があります。また,温暖化が水循環や生態系・農業生産にどの様な影響を及ぼすのかは引き続き重要なテーマです。このためには、我々の社会に大きな直接的影響を与える陸域の水循環、雪氷、植生の応答の問題を大気循環と海洋循環に結合された形で理解する必要があります。海洋においては、より高精度な熱塩循環像の解明と、そのなかにおける海洋渦の役割、沿岸海洋や海氷場の構造と変化を理解する研究などが重要な課題です。また、古環境の研究は、深海掘削、氷床掘削や年代測定技術の進歩によって大きく発展し、大気水圏科学の重な分野としての地位を確立しました。今後は、全地球史における大気と海洋の役割や物質循環の理解だけでなく、現在問題となっている温暖化の将来予測の精緻化にとっても必要な完新世(過去1万年間)の高精度環境変動復元を一層推進する必要があります。このような大気水圏科学の発展には、将来にわたり超高速計算機環境の維持と、ネッ トワーク研究体制の推進が不可欠です。
大気水圏科学では人間と大半の生物が生存する地球表層系の科学を扱っています。その活動と将来の展望について紹介します。本セクションは、地球の大気と海洋や陸域水圏からなる地球表層系を対象とする科学分野です。そのなかで起こる物理・化学・生物・地学にかかわる個々の過程と、各圏の相互作用の研究が重要な研究分野です。
2. 大気水圏科学セクションとは
本セクションは、地球の大気と海洋や陸域水圏からなる地球表層系を対象とする科学分野です。そのなかで起こる物理・化学・生物にかかわる個々の過程と、各圏の相互作用の研究が重要な研究分野です。
大気水圏科学は、地球惑星科学の他分野と同様に、自然現象の理解という純粋理学的な側面と様々な環境問題や災害などに対応するための応用科学的側面を併せ持っています。この両側面に関わる研究は相互に影響し合いながら発展してきました。例えば、大規模な自然災害をもたらす台風や集中豪雨は、社会ニーズに応える形で研究が行われてきましたが、その根本的理解には、対流現象や湿潤大気の物理学を発展させる必要もありました。一方、大気海洋に卓越するロスビー波や重力波は、純粋理学としての研究が先行しましたが、短期気象予報や中長期気候予測に関する現象としての研究も盛んとなりました。同様に,地下水を水資源として利用したい社会的ニーズからは,井戸周辺の地下水の動態についての研究が求められましたが、研究の進展に伴い,地下水を流域の水循環の一部としてとらえることが適切であると認識されるようになりました。また、温泉水は観光資源としての活用ばかりでなく、地下内部の地球科学的情報を得ることにも役立ちます。一方,水循環の研究は理学的観点から研究が進められてきましたが、現在では水環境の悪化を懸念する社会から,健全な水循環の形成という観点での研究も求められるようになっています。
3. 関連分野の最近の進展 現在の大気水圏科学は、地球環境に最も大きく関わる分野として、一層その研究領域を広げつつあります。社会ニーズにも支えられ、エアロゾルや大気化学、植生等の生態系や氷床を含む陸面過程、地球表面の7割を占める海洋と大気の相互作用、海洋内部まで至る人間活動をも含む地球温暖化現象・炭素循環・窒素循環,熱循環など様々な汚染物質の輸送や蓄積などの問題などが、重要な分野として急速に発展してきました。我々の理解が深まるにつれて、それら個々の現象は非常に強い相互作用を持っていることが明らかになってきました。そのために個々の現象のより良い理解と予測問題の解決のために、「大気・水圏システム」や「気候システム」を大きく超えた「地球システム」として捉える研究が発展しつつあります。その意味では、理学と工学・人間圏と社会経済に関わる接点も重要になってきており、フューチャーアースなどに象徴されるような多圏複合的な研究を益々推進する必要があります。このような大気水圏科学の研究における我が国の現状は、世界的にみても高いレベルにあると言えます。その背景には、現象をミクロからマクロまでシームレスに捉えるための、広域の地上や海洋の現場観測網の整備と維持、高精度の大型地上測器や衛星観測の発展や,同位体地球科学の発展で可能となった過去から現在の様々な現象の履歴情報の取得や年代解明の寄与がありました。そして、その空間的,時間的連関を定量的に理解するためのモデリング技術、データ解析技術、そして、それらを支える大規模計算機技術の発展も重要な背景です。また、その多くは、国内と国際の学術組織が主導する数々の共同研究計画の中で組織的に行われています。持続性社会の実現とその将来予測のため、大気水圏科学の担う役割は益々重要になることは世界的な研究動向と各国の支援体制を見ても明らかです。我が国では、「地球シミュレータ」や「京速コンピュータ」の始動による温暖化現象の研究を初めとする気候モデリングの発展が著しく、超高解像度の全球非静力大気モデルのような、世界をリードする研究が生まれています。このような我が国が得意とする計算科学・技術に根ざした大気水圏科学研究は今後も大きく発展するポテンシャルを持っています。
4. セクションの今後
今後は、比較的脆弱な広範囲に高精度で密な持続的観測的研究、および観測結果をモデルに取り込むデータ解析研究を、一層増進する必要があります。そのためには、気候・海洋・水文・生態系をよりきめ細かくモニターするための現場観測ネットワークの充実、地球観測衛星の一層の整備が必要です。このような観測体制の整備とモデル研究を統合することによって、大気と海洋が活発に相互作用する熱帯域と、観測データが乏しいが限定的であるが、今後、全球規模の影響を及ぼすと考えられる極域の双方における研究を推進する必要があります。また、全球的な視点のみではなく、地域特有の現象の理解も重要です。特にアジア地域は多様な環境条件下にあり、そこで生起する現象が人間活動にも大きな影響を及ぼしているのです。以上のような観点からは,大気化学、雲と対流、エネルギー収支や生態系を含む陸面過程,洪水や竜巻などの極端事象、地下構造や環境、そして陸域と海洋が接する沿岸地域の観測体制の整備とそのモデル化が重要です。温暖化や大気汚染に伴う対流圏の変化と、それとは異なるより上層の大気の変化、および上下結合の研究も引き続き行う必要があります。また,温暖化が水循環や生態系・農業生産にどの様な影響を及ぼすのかは引き続き重要なテーマです。このためには、我々の社会に大きな直接的影響を与える陸域の水循環、雪氷、植生の応答の問題を大気循環と海洋循環に結合された形で理解する必要があります。海洋においては、より高精度な熱塩循環像の解明と、そのなかにおける海洋渦の役割、沿岸海洋や海氷場の構造と変化を理解する研究などが重要な課題です。また、古環境の研究は、深海掘削、氷床掘削や年代測定技術の進歩によって大きく発展し、大気水圏科学の重な分野としての地位を確立しました。今後は、全地球史における大気と海洋の役割や物質循環の理解だけでなく、現在問題となっている温暖化の将来予測の精緻化にとっても必要な完新世(過去1万年間)の高精度環境変動復元を一層推進する必要があります。このような大気水圏科学の発展には、将来にわたり超高速計算機環境の維持と、ネッ トワーク研究体制の推進が不可欠です。
セクションボードメンバー 2024-2026
プレジデント | 佐藤 薫 | 東京大学 |
バイスプレジデント | 野中 正見 | 海洋研究開発機構 |
バイスプレジデント | 大手 信人 | 京都大学 |
幹事 | 今田 由紀子 | 東京大学 |
幹事 | 木下 武也 | 海洋研究開発機構 |
市井 和仁 | 千葉大学 | |
伊藤 進一 | 東京大学 | |
沖 大幹 | 東京大学 | |
沖 理子 | 宇宙航空研究開発機構 | |
川合 義美 | 海洋研究開発機構 | |
河谷 芳雄 | 北海道大学 | |
河宮 未知生 | 海洋研究開発機構 | |
木下 武也 | 海洋研究開発機構 | |
久保田 尚之 | 北海道大学 | |
小坂 優 | 東京大学 | |
小林 ちあき | 気象研究所 | |
齋藤 光代 | 広島大学 | |
佐藤 正樹 | 東京大学 | |
辻村 真貴 | 筑波大学 | |
東塚 知己 | 東京大学 | |
時長 宏樹 | 九州大学 | |
中村 尚 | 東京大学 | |
那須野 智江 | 海洋研究開発機構 | |
原田 尚美 | 東京大学 | |
日比谷 紀之 | 海洋研究開発機構 | |
檜山 哲哉 | 名古屋大学 | |
藤田 耕史 | 名古屋大学 | |
三好 建正 | 理化学研究所 | |
村山 泰啓 | 情報通信研究機構 | |
望月 崇 | 九州大学 | |
安中 さやか | 東北大学 | |
安成 哲平 | 北海道大学 | |
矢吹 裕伯 | 情報・システム研究機構 | |
吉川 裕 | 京都大学 |