2.地球惑星科学5分野の夢ロードマップ


(4)固体地球科学の夢ロードマップ
   ~稠密観測・極限実験・高感度分析・高性能計算が拓く固体地球科学~

 地球は、海、陸、生命が存在し、大きな衛星「月」との強い相互作用、及びプレート運動、地殻変動、ダイナモ作用を伴う活動的な惑星である。なぜ地球がこのように活動的であるのか、未来の地球と人間社会の関わりはどのように変化していくのか、また宇宙の中でも特殊であるのか普通であるのか、これらの疑問のもと、系外惑星の探索・発見と共に惑星「地球」の見方が大きく変わりつつある。地球での知見がリファレンスであると同時に、より一層、惑星「地球」の深い理解が求められている。
 地球は、固体地球圏、気圏、水圏、生物圏等に分けられるが、地球の根源的理解のためには、これらを1つのシステムとして捉える必要がある。その中でも、質量の99.98%を占める固体地球は重要な部分であり、火成・脱ガス作用、大陸形成、プレート物質循環等を通して、表層環境や生物進化に深く関わる。固体地球の徹底的な理解は、人間社会にとっても重要である。巨大な地震・津波・火山噴火を含む変動現象の評価とそれによる災害の予測と予防、資源の探求及び開発、環境の保全と改善等への貢献を通して、人間や社会と深く関わる。
 地球システムにおける固体地球の特殊性は、現象のもつ特徴的時間スケールと多様性にもある。プレートテクトニクスをもたらすマントル対流は、100万年といった時間のなかで支配的で有り、その変動が地球システム全体の長期的変動を規定する。プレートの運動により地震が起こり、火山や地形がつくられる。千年に一度の巨大地震は、一瞬(数分)の間に起こり、大災害を引き起こす。また人類は、千年以上の時間スケールでどのような変動が起こりうるか把握できていない。このような時空にわたる固体地球変動の複雑さに思いを馳せるとき、科学としての面白さと、それによって恩恵・影響を受ける人類社会の対応の難しさに理解が及ぶ。このような“超”複雑系ともいえる固体地球の理解は、各要素の漸進的理解が絡み合って展開する。
 惑星「地球」とそこでの現象の理解には、形成から現在に至るまで、及び表層から深部までの構造、進化の全容解明が必要である。それに基づき、宇宙の中での地球の個性と普遍性が明らかになり、未来予測や人間社会への貢献も可能となる。しかしながら固体地球の変動予測には多大な不確実性がともない、新たな観測データや現実によって検証されることにより理解が一段進む。このプロセスを経た理解を「認識」と呼ぼう。すなわち、地球の構造、変動、歴史の解明をさらに進め、惑星「地球」のシステムを理解し予測/検証することが、人類と宇宙に開いた「地球認識」に繋がるのである。高度な「地球認識」を得てはじめて我々は、科学にもとづいた人類の未来を語ることが出来る。

(i)要素項目とキーワードの関連性

a) 地球の構造、変動、歴史の解明
○構造/物性とダイナミクス(表層-中心核の観測と実験・数値計算上の再現)
  • ・地殻-マントル-核とメルトの相平衡・転移・流動(極限圧縮物性測定、高輝度ビームライン)
  • ・プレート・マントル対流/循環、MHDダイナモ(ポスト京)
  • ・大規模波動場構造解析・データ同化変動解析(Large-N array、 ポスト京)
  • ・未踏域観測(太平洋アレイ、フロンティア観測)、新計測(地球ニュートリノ、ニュートリノ振動、原子/光格子時計、光ファイバーセンシング、弾性回転計測)
  • ・沈み込み帯比較・統合研究、大変形・地形形成・長期変動・火成活動

○変動と自然災害(陸域稠密観測-海域掘削と構造・資源)
  • ・地震-測地観測網 (S-net、DONET/2、スロー地震)、重力、素粒子(ミューオン透視)
  • ・巨大変動(地震・火山噴火)評価、災害予測と社会還元(緊急地震速報、災害科学・防災施政との連携、ジオパーク)
  • ・海陸地質/資源 (深海掘削、超深度掘削、断層掘削、海陸新資源、元素資源マッピング)
  • ・衛星地球観測、環境変動/極域モニタリング

○地球史と生命(地球史解読)
  • ・探査回収試料による形成初期進化(サンプルリターン)
  • ・地球史・生命環境史の変動期(特異点)抽出(地球史特異点)

○惑星地球と探査(地球型惑星の探査、組成・物性・ダイナミクス)
  • ・全地球・ミクロ-マクロ変動結合計算(マルチスケール地球シミュレーター)
  • ・素粒子による地球内部熱源分布計測(ジオニュートリノ熱源トモグラフィー)
  • ・惑星内部構造・変動予測、惑星内部トモグラフィー(スーパーアース、ランダー探査)

b) 地球システムの理解と変動予測/検証
○多圏相互作用と地球システム(変動)
  • ・固体・大気・海洋複合系の循環・変動
  • ・月・惑星・宇宙空間との相互作用
  • ・地球形成過程:マグマ海、大衝突、月
  • ・地球史化学・生物層序と内外営力(同位体質量分析顕微鏡、初期地球)

○地球システム変動予測(海陸常時稠密変動観測と高精度予測;新環境制御、廃棄物処理)
  • ・全球運動と表層地質変動の連携解明
  • ・日本周縁ケーブル網、太平洋定常地球物理観測網(光ファイバーセンシング、フロート・グライダー観測)
  • ・地震・火山噴火予測の高度化

c) 人類と宇宙に開いた「地球認識」への到達
○惑星物性、資源(惑星地質・構造探査、太陽系新資源)
  • ・超高温高圧下での惑星内部構造と新物性
  • ・惑星:地質、新資源、移住・利用検討

○最先端稠密全球ネットワークによるリアルタイム監視(多様性の探索と長期地球変動予測/検証、自然・災害:制御/共生)
  • ・固体地球・表層・大気海洋・月・太陽相互作用の稠密観測
  • ・地震・火山噴火・変動高精度予測、防災手法確立

○シームレスな地球形成・進化史:データとシミュレーション(固体地球-表層・ 生命圏-宇宙圏統合進化モデル)
  • ・集積過程−冥王代から現在まで、 表層環境から地球中心まで、 全地球システム史と未来予測

 段階的に、地球科学、惑星・天文学、生命科学を融合し、地球の個性と普遍性、銀河史の中の地球史、人類と地球システムの未来の探求を進める。

(ii) 基盤手法

 これらの進展は、主に固体地球科学の夢ロードマップの副題及び以下に掲げられる手法によって支えられる:(1)表層から中心核まで、及び地球史に及ぶ稠密観測:物質科学的観察(地質・岩石・鉱物学、古生物学、地球化学的手法による全地球・地球史野外調査、組織構造解析、試料採取)と資料アーカイブ化とキュレーション、及び地球物理学的観測(地震-測地観測網、重力、素粒子による海陸連結稠密常時変動観測)とデータ公開、(2)室内実験及び数値実験による極限実験:地球惑星物質の物性に関わる超高温高圧発生実験、スーパーコンピューターによる第一原理計算、地球内部及び全地球システムの大規模連結シミュレーターによるダイナミクスの解明、ビッグデータ解析によるシステム解読、およびハード・ソフトウェア共有、(3)生体物質を含む地球惑星物質の高感度分析:高解像度構造解析、ナノスケール全元素・同位体・古地磁気強度分析。また左上部にある、サイエンス・テクノロジーの進展にも大きく依存する。

(iii)境界条件的事象

 固体地球科学の夢ロードには、社会の未来の発展に多大な影響を及ぼす可能性のある、すなわち境界条件的事象がある。起こりうる災害/変動規模を予測し、社会に提示して行く必要がある。

高頻度事象: 巨大地震(プレート境界、都市域直下)、噴火(地域および気候への影響)
低頻度/地球史的事象: 巨大カルデラ噴火、気候変動、隕石衝突



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