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2009年4月6日のラクイラ地震に関する有罪判決について(声明)

2009年4月6日のラクイラ地震に関する有罪判決について(声明)

2012年11月2日

  2009年4月にイタリア・ラクイラ地方で起こった地震は,300人以上が犠牲になる大惨事になりました.今年の10月22日にラクイラの裁判所は,地震防災に携わる政府委員7人を過失致死罪に問い,禁錮6年と総額780万ユーロの罰金を課す判決を下しました.我々は地震の被災者に深く哀悼の意を示すとともに,自然科学者としてこの判決の意味を十分に考える必要があります.

  報道によると,地震の6日前に委員会が「地震予知ができなかった責任を問うのではなく,状況分析と情報伝達が不適切であった」結果,住民を死亡させる事態を招いたことが主な判決理由と報道されています.委員会の判断が行政を通じて住民の避難を抑制したことは事実であり,その経緯を究明して再発を防ぐことが必要です.

  委員会に含まれる6人の地震研究者は,政府の諮問を受けて重大自然災害の予測と評価を行う立場にありました.彼等は研究成果を社会還元することを自らの責務と考え,自発的に政府の防災施策に貢献していました.科学者は,常に精確な現状分析をもとに客観的に将来予測し,さらに,正しく行政にリスク情報を提供して行政を通じて一貫した情報を社会に発信することを促すことに責任を担っています.しかし,科学者は予測には常に不確実性が伴い限界があることを認識しています.

 自然災害研究の主目的は災害リスクの軽減と緩和で,研究に基づく意見・判断の表明は研究の過程です.この研究活動が刑事訴追の対象となるならば,自由な発言と議論による研究の発展が妨げられる恐れがあります.行政の一部として防災施策が合理的かつ適切に行われるためには,多くの研究者が積極的に参加し,客観的な災害予測と評価に関する開かれた議論と意思疎通が不可欠です.しかし,その行為によって刑事責任を追及される可能性があれば,研究者は防災行政への参加に躊躇するでしょう.結果的に,災害軽減につながらないと私たちは考えます. 。

  地震学をはじめとする地球惑星科学は,地球という巨大で複雑なシステムから,ごく限られた情報を得て自然災害を分析・評価し予測しようとしています.そこでは自然現象自体がもつ多様な変動特性に加え,限られた知識や経験に由来する不確実性が常に存在します.その結果,自然災害の予測と評価は不完全で一定の限界を有します.そして時に限界を超えた予測困難な事象も起こります.この限界を広げることが科学の責務ですが,限界の存在を研究者が深く自覚し,行政・市民が正しく理解できるように伝え,その上で互いに信頼し協調しうる関係を構築する必要があります.

 ラクイラ判決から学んだことを踏まえて,今後,科学者は災害の予測と評価の高度化を目指した積極的な研究活動を続けていく責務があると思います.

公益社団法人日本地球惑星科学連合会長
京都大学教授 津田敏隆

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