地学教育

 

2004111

中央教育審議会
初等中等教育分科会長

分科会長  殿

地球惑星科学関連学会合同大会共催・協賛学会(全22学会)1)
各学会長・理事長一同 2)

 

社会の持続的発展を促す地学教育のための提言

 

 

 私達、地球惑星科学関連22学会(別記)1)は、我国の初等・中等・高等教育における地学分野の教育の著しい衰退と、それが将来に及ぼす悪影響を大変に危惧しています。この状況を改善するために、私達は連名で、文部科学省ならびに関係諸機関に以下の提言を行います。

 

 

提言

 地学分野の教育は、人類の持続的発展に不可欠な教育内容を含んでいるにもかかわらず、長年にわたり著しい衰退傾向にある。そこで地球惑星科学関連22学会(別記)1)は、文部科学省ならびに関係諸機関に、日本の初等・中等・高等教育における地学分野の教育の重要性を認識し、その発展に努めることを要望する。

 

1.義務教育段階の理科教育は、「生きる力」を育む地学分野の教育内容を十分含んでいないと考えられる。この状況を早急に改善すること。

2.後期中等教育(高等学校等)において、地学分野の教育を受ける生徒の割合が長期に亘って減少し続けている。より多くの生徒が地学分野の教育を受けられるように、教育課程を改正すること。

3.初等・中等教育において地学分野を教えることができる教員を育成するため、大学等の高等教育機関における教員養成のあり方を見直し、教員免許法施行規則を改正すること。

4.初等・中等教育における地学分野の教育を充実させるため、同分野の内容をテーマとした現職教員の研修を、より一層充実させること。

5.地学分野の内容をテーマとした生涯教育の取り組みを支援すること。

 


 

提言の趣意

 

提言の背景

 初等・中等教育における理科教育の目標は、日本および世界の将来を担う児童や生徒達が、豊かな人生観や科学的な自然観を身に付けられるようにすることである。彼らが幅広い知識と技能を身に付け、それらを用いて人類が直面するさまざまな問題の解決策を自ら考える機会を与えられることが重要である。

産業革命以後、科学技術は飛躍的な発展を遂げ、我々はその恩恵を受けている。しかしその反面、科学技術に支えられた人類の経済活動は、「地球温暖化問題」のように地球環境を脅かす様々な問題を引き起こしつつある。地学は、このような課題を考え、解決方法を探求する上で必要不可欠な内容を扱う。(以下、地学は高等学校科目「地学」とその他の科目の地学分野、ならびに小・中学校の理科地学分野を指す。)

しかしながら、このような理科教育における地学の重要な役割は、広く認知されているとは言い難い。その結果、近年、小・中学校では地学分野の専門的な知識を持つ教員が目立って少なくなり、高等学校では、科目「地学」履修者の減少と相まって、講座を開講することさえできない学校が増加してきている(参考文献[1],[3])。私達、地球惑星科学関連の22学会は、このような現状によってもたらされるであろう影響を憂い、社会の持続的発展を進めるために地学教育が、必要かつ重要であることを訴える。

 

地学分野の特徴と地学教育の今日的意義

 地学は、地球の起源や人類の進化などといった、子供達が持つ根元的な問いに答え、宇宙の姿などのように子供達の夢を育む内容を、豊富に含む科目である。また、大きな時間・空間スケールを扱うことによって、児童や生徒の時間・空間概念の形成を助けることができる。さらに、地震や火山、台風といった生活に直接関わる自然現象を扱い、資源や環境問題など、全人類に共通の問題を扱う(参考文献[2])

 また地学は、自然を探求し記述する方法において、理科の他の分野とは異なった特徴を持っている。すなわち、他分野の科学、特に物理や化学が、自然現象を要素還元的に捉える傾向が強いのに対し、地学は数多くの事実を収集し分析した後、それらをまとめて説得力のある一つの全体像を描くという方法をしばしば用いる。このような方法によって得られた成果の一つが、地球環境の有限性についての人類共通の認識である。

従って地学教育は、我々の文明が自然と調和しつつ発展していくことを考える上で、必要不可欠な知識と手段を学習する機会を児童や生徒に与える、という独自の使命を担っている。

仮に、地学教育が私達22学会の願いに反して今後さらに衰退していくとしよう。例えば、自然災害についての十分な知識が無いために、貴重な人命が失われる恐れが増大するだろう。また、ますます影響が懸念される地球温暖化についての国民的理解が得られず、その対策の実施が遅れるなど、我々の社会とその将来に重大な悪影響をもたらすであろう。

地球惑星科学関連22学会は、本提言が早期に具体化されることを強く望む。

 


参考文献

[1]「地学教育の昨日・今日・明日−地球惑星科学は理科・地学離れを救えるか?」,地球惑星科学関連学会合同大会,2003

[2]「新しい地学教育の試み−地球惑星科学から「高校地学」へ」,地球惑星科学関連学会合同大会,2004

[3] 「平成18年度(2006年度)以降の大学入試センター試験「地学」出題方式(「理科」内でのグループ分け)に関する要望」,地球惑星科学関連学会学会長,2004

 

注:

1) 地球惑星科学関連学会合同大会は、地球惑星科学に関連する以下の22の学術学会から組織されている。

資源地質学会,水文・水資源学会,地球電磁気・地球惑星圏学会,日本応用地質学会,

日本海洋学会,日本火山学会,日本岩石鉱物鉱床学会,日本気象学会,日本鉱物学会,

日本古生物学会, 日本地震学会,日本水文科学会,日本測地学会,日本大気電気学会,

日本第四紀学会,日本地学教育学会, 日本地下水学会,日本地球化学会,日本地質学会,日本天文学会,日本陸水学会,日本惑星科学会

 

2) 上記22学会の会長(あるいは理事長)は以下の通り。

資源地質学会

(会長)

鹿園直建

慶應義塾大学理工学部

水文・水資源学会

(会長)

池淵周一

京都大学防災研究所附属水資源研究センター

地球電磁気・地球惑星圏学会

(会長)

藤井良一

名古屋大学太陽地球環境研究所

日本応用地質学会

(会長)

井上 大榮

電力中央研究所

日本海洋学会

(会長)   

今脇資郎

九州大学応用力学研究所

日本火山学会

(会長)

渡辺秀文

東京大学地震研究所

日本岩石鉱物鉱床学会

(会長)

小畑正明

京都大学大学院理学研究科

日本気象学会

(理事長)  

廣田 勇

京都大学大学院理学研究科(名誉教授)

日本鉱物学会

(会長)   

藤野清志

北海道大学大学院理学研究科

日本古生物学会

(会長)

棚部一成

東京大学大学院理学系研究科

日本地震学会

(会長)   

大竹政和

東北大学大学院理学研究科名誉教授

日本水文科学会

(会長)  

森 和紀

日本大学文理学部

日本測地学会

(会長)   

竹本修三

京都大学大学院理学研究科

日本大気電気学会

(会長)

河崎善一郎

大阪大学大学院工学研究科

日本第四紀学会

(会長)

熊井久雄

大阪市立大学大学院理学研究科(名誉教授)

日本地学教育学会

(会長)

下野 洋

星槎大学共生科学部

日本地下水学会

(会長)  

佐倉保夫

千葉大学理学部

日本地球化学会

(会長)

田中 剛

名古屋大学大学院環境学研究科

日本地質学会

(会長)   

齋藤靖二

国立科学博物館(名誉館員)

日本天文学会

(理事長)   

松田卓也

神戸大学大学院理学研究科

日本陸水学会

(会長)   

小倉紀雄

東京農工大学農学研究科

日本惑星科学会

(会長)  

水谷 仁

宇宙航空研究開発機構

 

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