研究企画委員会 報告
研究企画委員会
委員長 木村 学
はじめに:
平成12 年度10
月評議員会の下に発足した研究企画委員会は「現在の地球科学と地質学を巡る状況を分析し,社会動向とその将来を見据えて,日本地質学会の理念を再確認する.理念を実現していく上での基本的事項について提言し,それを推進するための研究企画を立案し,提案する」ことを任務とした.委員会の構成は評議員全員がそれぞれの分科会に所属して,検討をすすめることとした.この間,地質学会の年会の機会を利用して,2回の公開討論会を開催し,議論を重ねて来た.また平成13
年度には科学研究費(企画)「21
世紀地質学発展の総合戦略の構築」の補助も受け,分科会や討論会の開催を行った.特に新しい支部の発足(中部支部や四国支部)を契機として新しい支部活動のあり方も模索した.以上の議論の結果,得られた現段階でのまとめが以下の文章である.目まぐるしく展開する情勢の中でも着実に前進する学会として発展することを念じて報告の枕とする.
「新しい日本地質学会構築へむけて」
新しい世紀に入り,今後の世界と日本社会の将来を見すえて,日本の学術・文化・科学・技術,そのための高等教育のあり方などに関して大規模な再編成がすすんでいる.たとえば2001
年の文部科学技術省の発足と国研の大再編成につづいて,2004
年からの国立大学の法人化の方向が国大協において決定した.政府主導の科学技術基本計画では,生命科学,情報科学,地球環境・ナノ技術開発と重点分野を設定し,日本の科学技術体制を効率的に再編成する路線が取られている.また高等教育においても全国一律の平均的教育をほどこす路線から転換し,競争原理を導入することがすすめられている.これらに対する賛否に関わらず,地球科学界・地質学界も,この目まぐるしい流れの影響を受けずにはいられない.この流れは社会に対しては短期的にはより効率的に科学技術の成果を還元する可能性があるとともに,長期的,持続的に科学技術の成果を社会に還元していく上で欠かすことができない基礎的な学術研究が軽んじられる可能性があることも多くの論の指摘するところである.
特に重点とされた地球環境に関しては,地質学は最も貢献するところの大きい分野であると期待されているが地質学界の主体的努力は極めて不十分に思える.学界が激動する情勢,社会的要請に敏感に対応する必要があるとともに,科学の発展という長期的な展望も見据えた基礎科学的視点から,正確なる対応が求められている.地球科学・地質学の果たすべき知の創造への貢献,地球環境の持続的保全・資源エネルギーの人類社会への安定的供給など人類と地球の持続的生存への貢献,そして防災や環境汚染対策等,当面する社会要請への貢献を日本地質学会の3つの役割として明確に押し出す必要がある.新しい理念のもとに活発な創造的研究活動を展開し,旺盛に情報発信交流を展開し,緻密な教育普及活動を展開して,社会貢献を強く意識した新しい日本地質学会構築を目ざすために以下の報告をまとめる.
日本地質学会の構成
日本地質学会は地質学に関連する科学者,技術者,教育者,将来これらの分野で職業を得ようとする学生,そしてこの分野に知的興味を持つ自立した個人が集まって成立している.1893
年創立以来,多様な会員の多様な要求に依拠して学会は発展してきた.21世紀に入り日本地質学会は,100年以上に及ぶ伝統と新しい可能性を統一し,活力をもった学会として更に発展することをめざしている.
地質学の一般的役割と日本地質学会の理念
地質学とは地球・惑星の岩石圏を主な研究の対象としつつ,それと地球表層部の流体圏や生命圏,そして人間圏との相互作用をも解明することを目的とする「地球を知る」科学の体系をいう.私達,日本地質学会はこのような科学である地質学の基本的役割は以下の3 つのことに貢献することであると考えている.
1.「知の創成への貢献」
20世紀は「科学の時代」とも言われる時代であった.「私達はどこからやってきて,今どこにいて,どこへいくのであろうか?」という人類共通の根本的問いに対する科学の解答は,人類を非科学的な迷信による恐怖から次々と解放してきた.地質学と地球科学は直接的に私達の住む惑星/地球の起源,進化,現在の姿,そして予測される大局的未来を明らかにし,また生命の進化する過程を明らかにした.そして私達が有限な空間と時間の中に生きていることを描き出した.しかし,科学の急速な発展は一層多くの未解明な課題を提出した.還元主義的科学だけでは解けない科学の限界と自然そのものの複雑性が浮かび上がり,地球や生命,環境などを理解するためにはシステムや自然の階層性・歴史性などに関する深い考察が不可欠なものとなっている.21
世紀こそ地質学の新しい発展が新しい知の創造に向けて一層貢献できる時代である.
2.「人類と地球の持続的生存への貢献」
地球環境の持続的保全,資源エネルギーの安定的供給などが生命と人類の生存のかかわった重大な問題として浮上しており,特に先進国の科学と政治と経済の果たすべき役割が国際社会で強く求められている.私達は,固体地球内部で進行する変動が地球表層の流体圏,生命圏,人間圏と強くリンクして地球の進化がすすみ,地球表面の環境が形作られて来たことを最も良く知っている.また地球外からの擾乱も時として起こったことも知っている.この科学を一層発展させ,未来の地球環境予測とその持続的保全に対する貢献がこれまでにない空間と時間スケールで求められている.他の自然諸科学や人文社会科学との強い相互作用をもった新しい地質学のこの分野での貢献は当面する極めて重要な課題である.
また,21世紀,限界に達すると見積もられる地球人口の増加に対して,国際社会は資源エネルギー,水資源,食料枯渇などの問題に対する戦略的未来対応が迫られている.地球スケールでの物質循環に対する深い科学的理解なくしてこれらの人類の生存に関わる課題には対応できない.この分野での日本の地質学の貢献も極めて重要である.
3.「当面する社会要請への貢献」
活発な変動帯における地震災害,火山災害,斜面崩壊災害,都市基盤災害など自然災害予測と防災,生活時空間における環境汚染,土壌汚染,水汚染,資源エネルギー開発と廃棄物処理など社会が当面する課題に対してこれまで地質学は重要な役割を果たして来た.21
世紀の地球的規模での資源エネルギー枯渇への対応と共に,長期的に安全な産業廃棄物地下処分や最終核廃棄物地層処分などに対しても,科学的見地から積極的にこれらの課題に関わり,安全な社会の持続的発達を果たす上で地質学の貢献も極めて重要である.これら3
つの役割は相補的な関係にあり密接不可分である.地質学に多様に関与する人たちが相互に交流し,総合的にこの地質学の3
つの基本的役割を推進すること,そしてその成果を広く社会へ普及することが日本地質学会の基本的理念である.
1. 学会活動改善に関する提言
学会の果たす最大の役割は地質学に関わる専門家集団として,研究成果の公表に権威ある保証をあたえることと,最近の会員の研究活動にかかわる情報と人の交流を支援することである.加えて専門家集団としての社会への情報発信も近年とりわけ重要である.また,情報発信交流の電子化に伴って学会活動の根本的な変更が世界的に進んでいる.情報に関わる著作権問題/倫理問題に対する法的な対応も含めて早急に情報発信交流の方針を確立する必要がある.
情報発信
○ 科学の成果は広く国際的に提供されるべきものである.日本の発行する地球科学関連国際雑誌の中でもっとも高いimpact factorを持つIsland Arc
誌の電子ジャーナル化に引き続いて,この国際誌の国際競争力を高めるため,引き続き努力を重ねることが重要である.
○ 地質学会会員の職業構成を考慮し,会員の多様な要求に配慮した活動を展開するために,地質学雑誌の位置付けなどを見直す必要がある.
○ 社会に向けて広く貢献することを高く掲げ,ホームページの飛躍的充実など緻密な情報発信と各種問題への権威ある発言提言を組織する必要がある.学会時における科学の特筆すべき成果や特筆すべき社会貢献などに関して記者会見を開く等,自ら直接,社会へ還元することも重要である.
○ 社会や国民のニーズを吟味し,一般社会へ向けた地球と地質に関する旺盛な出版活動を組織的に展開する必要がある.
学会運営/年会等開催
○ 学会の年会の開催方式に関して多くの努力が払われ,改善されてきたが,他の地球諸科学あるいは他の自然科学や人文社会諸科学も含めた境界領域に大胆に踏み込んだ魅力に富み,時機を得たセッションをリードすることが特に重要である.
○ 日本地質学会では年会などの開催時以外に,研究の交流をすすめる場をほとんど設定してこなかった.アメリカ地質学会のペンローズ会議方式のようなテーマを明確にし,かつ公募によって参加者をつのり,数日間宿泊を共有して徹底した議論を展開して科学を前へすすめる場を学会として提供することが重要である.その場合,データやアイディアの独創性の尊重等が前提となることは言うまでもない.質の高い会議はIsland Arc
誌が積極的に特集号などを誘致して成果を世界へいち早く発信することも重要である.
○ 春の地球惑星関連学会合同大会におけるセッションの設定に当たっては日本の地球惑星関連の研究者が一同に会するという地質学会だけでは得られないメリットを最大限生かして,他の学会との共催や地球惑星関連科学以外(生命科学や情報科学,あるいは応用科学)との共催を含めて開く工夫をするなど,特に境界領域を強く意識し,リードすることが重要である.たとえば現在の地球惑星関連学会合同大会においても地球環境を全面にすえた取り組みなどは飛躍的に強化することが重要である.
○ 学会運営や年会開催に関して,これまで押し進めてきた男女共同参画に関わる課題を更に意識的にすすめる必要がある.また,女子学生の地質学への積極的参加と将来この分野で職業を得られる様,支援する取り組みを一層強化する必要がある.特に他の自然科学分野における男女共同参画のための取り組みとも連携し,研究教育機関などにおける職場環境改善のための活動支援も重要である.
○ 支部活動の抜本的強化を計る必要がある.これまで支部活動はそれぞれの地域によって様々な活動を展開してきた.ともすると学会構成員の要求や地域的な研究交流に閉じがちであった活動を大胆に開き,地域社会との結びつきを抜本的に強化する創造的活動を展開し,地質学会の基本的理念を実現していく活動を強化する必要がある.新しく発足した四国支部における学会ファンの組織化や中部支部の取り組み等は教訓となる.
2.
大学・大学院教育と学会の役割に関する提言
地質学の研究活動の主要な部分は大学と国公立の研究機関がこれまで担って来た.1990
年代まで地質学が主体であった日本の大学における地球科学の研究教育体制は他の地球科学諸分野との統合による地球惑星の総合的研究と教育,あるいは地球環境や自然環境解明を理念として他の自然諸科学との統合による総合的研究と教育を掲げて再編成されてきた.また,このことは地質学,地球物理学,地球化学など細かく地球諸科学へと分化していた20
世紀的意味での「地球科学」の古典的体制がはっきりと終わったことを明確にした.しかし,研究教育の組織的体制は変更されたが,内容として実体的になるにはまだまだ途上にあると言わざるを得ない.たとえば,新しく総合された教育カリキュラムがどのように機能しているかは明確ではない.地質学は地球科学の黎明以来,その中心的位置を占め,常に他の自然諸科学の先進的成果を取り入れて,地球の理解を押し進めてきたが,今その専門性の深化とともに他の自然諸科学や人文社会科学も含めた新しい教育体系の構築が求められている.大学や研究機関の法人化に見られるように,研究活動が「より効率的・競争的環境」で行われるように急速に改革がすすめられている.この改革は「自主的・自律的な科学技術の先端」を形成するために有効である可能性がある.一方,短期的な効率的・競争的環境になじまない「時間を要する基礎的な知の創成」と「広く深い視野を持つ豊かな科学」を発展させることに配慮が欠けると地質学の総合的役割・日本社会が果たすべき大局的な国際的役割が果たせなくなる可能性もある.多様な個性をもつことになると予想される大学や研究機関を結ぶ学会の新たなありようが極めて重要である.地質学における20
世紀初頭の古典的カリキュラム体系は歴史的役割を果たした.学際的領域と融合した新しい地質学が果たすべき役割を推進する人材を育成するための新しい体系的カリキュラムの形成は極めて重要である.個々の大学の自律的努力に加えて学会として高等教育の体系化を支援することが重要である.大学間カリキュラム・単位交流など可能性を最大限探り,また学会が独自に学生を対象としたさまざまな創意あるショートコース「学校」を開催する必要がある.学際的カリキュラム体系を強く意識した「教育出版活動」も支援する,など,新しい地質学を担う人材の開発をすすめる必要がある.
○ 学会開催時あるいは夏休み等の期間を利用して以下のようなショートコースを設ける.個別大学では不足する基礎的な教育に関して学会として相互に補助するシステムを設ける.シラバス(講議,実験,実習内容,時間)を明確にして,学会法人と大学法人の間の契約による大学の単位認定になるような新しい試みを行う.
@総合的地質調査法コース
A物理探査観測コース
B実験地球科学コース
C分析地球科学コース
D総合観測コース
(海洋底コース,活断層コース,山岳コース,都市基盤コース)
○ 地球惑星科学,地球環境科学において取り組まれているプロジェクト研究から積極的に最先端に関する集中的なセミナーを誘致し,若い研究者や大学院生の活発な取り組みを支援する.(統合深海掘削計画,セレーネ計画,月再訪計画,地震予知計画,火山噴火予知計画,廃棄物地層処分などなど)
○ 大学における地球惑星科学,地球環境科学などのカリキュラムに関して学会としての検討を行い,地球科学における人材養成の体系化を計る.
3.
初等中等教育と学会の役割に関する提言
地質学の総合的役割を推進する上で専門性を教育する高等教育のみならず,それに至る初等中等教育は重要である.地球や生命を慈しむ豊かな人間性の形成,自然・学術・科学・技術を理解し,将来地質学の発展を担う人材の開発のためには初等中等教育が鍵である.大学受験競争の中で深刻化した「地学切り捨て理科離れ」や21世紀前半に訪れる未曾有の日本社会の少子時代に学会としてどのような政策を示すのかが求められている.
高等学校においては受験最適化教育が一層進行し,理科系受験生に対してすら極端に受験科目に偏重した教育体制が大学専門教育にも支障をきたすに至っている.高等学校においてはこれまで以上に地学教育が減少し,日本人の地球に関する知識はおおむね中学校教育までというのが現状である.2002年4月より始まった学校教育における完全週休2
日制を背景として,初等教育においても自然や地球に関する教育の時間が減少し,そのことに関する危機が叫ばれている.このことと欧米先進諸国に比べて日本人の自然科学に対する関心が近年,極端に低くなったという深刻な現実が指摘されている.
しかし,一方で,環境をキーワードとした大学学部は多くの志願を集め,自然と接する多くの教育の実践からは子供たちの「知の喜び」が数多く報告されている.これまで,地質学会は主にその構成員の要求を満たすことに閉じてその主要な活動を展開してきたが,その科学の成果を大胆に未来を担う子供達に還元して,学校教育だけには期待できない未来の地球科学,地球環境科学を担う後継者育成に積極的継続に取り組む必要がある.
○ 学会の年会が日本各地を巡る利点を生かし,一般普及活動を一層充実させるとともに,特に小学生から高校生まで含めた若年層に特段の配慮をした企画をすすめる必要がある.
青少年普及講演会,青少年科学キャンプ.
○ 若年層を焦点とした出版,ホームページなど情報発信をすすめる.(特に相互作用が可能な発信が重要である)
○ 地質学会が主導する学校教育での地学の教科書作りに本格的参入を検討する
○ 支部活動を充実させ,多くの学会構成員の協力で地域の特性を生かした若年層の地質学ファンを持つことに積極的に取り組む必要がある.大学における公開講座やOPEN COLLEGEなど,今後増えることが予想される様々な企画との継続的連係も大事である.
○ 以上の活動を実のあるものとするために,地方自治体の教育委員会あるいは地域マスコミとの密接な連係を構築する.
4.
博物館と学会の役割に関する提言
21
世紀前半の日本では未曾有の少子社会と超高齢化社会が現実のものとなる.しかも同時に平均的教育水準が世界で最も高い社会でもある.年令の壁を超えて科学の重要性や自然の豊かさを理解する社会を作り,未来へと引き継いでいくためには博物館はその基軸である.特に,1990
年代以降の大学における地質学の研究教育体制の大幅な変更に伴い,それまで大学が担ってきた地質学の記載分類学的研究とアーカイブ資料保存(化石,岩石,鉱物,記載データ)機能が重点化された大学における大学博物館の充実として分離された.しかし一方で,多くの地域においてはこの機能が切り捨てられた.このような情勢の中で地域に根ざした多くの博物館が「地域の地質研究と資料保存,そして教育の拠点」として機能することが特に重要であり,期待されるところでもある.学会としてそのような博物館の意義をこれまで以上に明確に位置づけ,量質ともに高い水準のものが日本各地に形成されていく,そしてそれを中心とした活動が展開されていくように学会が支援することが重要である.
80 年代末から90
年代前半にかけて,日本各地に多くの自然史関係の博物館が建設された.しかし,その後の日本経済の悪化とともに博物館の閉鎖がとりざたされている.一方で学校教育における完全週休二日制の導入と総合学習の開始,生涯学習の要求は博物館の需要をかつてない程のものとしている.自然を愛する老若男女が集う場としての博物館活動を地域社会の拠点として学会として支援する活動に取り組む.
○ 地域社会の地質アーカイブ保存活動学術的に貴重な露頭の保全と博物館活動支援失われた貴重露頭の記録保存(写真,記録,化石,岩石,鉱物)
○ 博物館日常活動,イベントの積極的支援(講師派遣,資料提供,各種執筆協力)
○博物館ネットワーク作りの支援
○ 以上の活動を実のあるものとするために,地方自治体の教育委員会あるいは地域マスコミとの密接な連係を構築する.
5.
民間と学会の役割に関する提言
地質学の社会的意義,その科学技術の到達点の質を最も敏感に反映するのは産業である.自然災害予測や防災,生活時空間における環境汚染,資源開発,廃棄物処理などに関連する新しい技術の創造とその交流に学会は積極的支援をすることが重要である.また,近年地球環境保全にかかわる多くのNPOとも積極的な関係を計ることが重要である.
日本地質学会のこれまでの活動はともすると「知の創造」に片寄ったものであり,直接的に役に立つことに鈍感であるとの内外の批判が強かった.このことは日本においては理学部において主に「地質学」の教育と研究がなされ,理学部の基本的目的が「真理の探究」に置かれていたと言う歴史的事情を色濃く反映している.しかし,21世紀を迎えた今,科学と技術の融合,理と工の融合,産学の連係などこれまでの枠を超えた活動が重要であることが内外において強調されている.
○ 産学の連係を学会としても強く意識して支援する必要がある.とくにJABEE
に関わる課題には積極的に関与し,国際的な地質技術者養成に貢献することを引き続き重要な課題とする.
○ 自然災害予測や防災,生活時空間における環境汚染,資源開発,廃棄物処理などに関わる研究活動を積極的に誘致,組織する必要がある.たとえば二次汚染をともなう従来の物理化学的処理ではなく,安価で持続可能な微生物処理の研究開発などは急務でかつ重要である.
○ 地球環境保全に関わるNPOなどとも連係し,科学的に適切な助言を計れる活動を支援する必要がある.
○ 以上の活動とともに,専門家集団として研究活動の結果を広く社会に公表し,還元する必要がある.
○ マスコミとの連係を強化し,科学の普及と社会貢献を積極的にアピールする必要がある.
6.
政策・行政と学会活動に関する提言
地質学の3つの基本的役割を果たすことは人類と地球の未来,日本社会の未来にとっても極めて重要であると私達は認識している.このことを実現するためには,国際組織,国家政府,地方自治体の基本的政策と行政に反映させるための活動を抜本的に強化することが必要がある.学会活動の基本的柱として位置付ける.学会とそれぞれの行政組織とが恒常的に相互意思疎通ができるような体制を意識的に作る必要がある.
○ 国連など国際機関への積極的提言の展開,人材の派遣.
○ 国の科学技術政策/学術文化政策立案実行過程への参加.
○ 国の資源エネルギー政策立案実行過程への参加.
○ 国の教育政策立案実行過程への参加.
○ 国の地球環境保全政策立案実行過程への参加.
○ 地方自治体における各種政策立案実行過程への参加.
○ 院生学生の国家公務員試験「地質」の受験を励まし,多くの有能な人材を輩出することを学会としても重視する.
7.国際社会と学会の役割に関する提言
20世紀は世界の分極と対立の時代であった.21世紀に国際的融合と平和の時代を作ることは人類共通の願いである.21世紀は一層グローバルに人と情報とものが行き交う時代である.全地球にまたがる地球環境問題,一国では解決し得ない資源エネルギー問題や自然災害問題などに先進国たる日本の地質学が役割を果たすことが重要である.「知の創造」において先進的な位置を占めるとともに,上に述べた地球環境や国際的な社会的要請にも答えられる学会でなければ成らない.国際的な地質関連の職業を持つ人たちとの連係も鍵である.日本の国際的位置から見て日本地質学会は国際的にも主導的な役割を果たすことが期待されている.早急に国際的に開かれた学会をつくるとともに,さまざまな活動において国際的にリードできる活力と力量と体制をそなえた学会を作ることが重要である.直接的国際交流と共に,先に述べた学術雑誌の充実,情報発信など,特に国際性を意識した活動を展開する必要がある.
○自然災害に関わる国際調査団の積極的派遣.
○高度な情報を連続的に発信するweb siteの構築.
○日本の地質研究者の世界的貢献の発信.
○日本周辺の地球科学的成果の発信.
○web siteによる情報請求などへの機敏な対応システムの構築.
○ 環太平洋地域の各国地質学会との情報交流や学会共同開催等の企画,活発な相互連係.共同プロジェクト支援.
○学会における留学生支援活動.留学希望学生への窓口的情報提供
8.地球関連学会と学会の役割
地球科学の総合性と多様な発展を反映して,これまで多くの地球科学関連学会がつくられ,それぞれの学会が独自に活発な活動を展開してきた.関連学会の構成員総数は数万人規模となっている.地質学の基本的役割を果たすためには,関連する学会が支えている学術・科学技術との交流・連係,政策作成や行政への提言を含めた社会的役割においての共同歩調,一貫した教育体系をつくるための共同歩調などは不可欠である.地球惑星関連合同学会連合大会,地質科学関連学協会連合などの活動を積極的・主体的に支援し,地球関連科学の全体としての発展に貢献することが重要である.また,地球環境の持続的保全や生活時空間での社会の要請に答えるためには地質関連学会,地球惑星科学関連学会の枠を大きく超えた連係こそ極めて重要である.
○ たとえば地質学会会員も中心となって長年進めてきた,生命―水―鉱物相互作用セッションが地球環境レギュラーセッションとして定着させたような活動を,様々な分野について今後更に積極的にすすめる必要がある.
○ ナノスケール地球科学なども新しい地質学の方向として,期待されている分野であり,境界領域として今後の大きな発展が見込まれる領域であり,合同大会で地質学会が積極的に開拓すべき分野である.
○ 日本学術会議等の活動に積極的に関与し,専門領域を超えた問題に積極的に関与することが重要である.持続的地球環境保全,地球温暖化,21
世紀の資源エネルギー,廃棄物処理などはすぐにでも取り組める課題である.
9.新しい日本地質学会をめざして.
以上に21世紀の早い時期に達すべき,新しい日本地質学会の姿についてのスケッチを試みた.これまで,日本地質学会は長い歴史があるとはいえ,日本の中の専門家内へ向いた共同体としての学会であったといえる.21世紀を迎えた今,そこから大きく脱皮し,多様な学会構成の特徴を最大限生かし,強く地質学の社会貢献を意識し,また新しい地質学の発展を計る国際的学会へと変貌することを目ざそうというものである.国際的には近代工業社会たる20世紀の文明が終わり,グローバルに人間社会が変わろうとしていることが明確となっている.日本社会も持続的発展を遂げられる社会たるべく多くの困難に立ち向っている最中にある.その中にあって,日本地質学会はこれらの変化と未来を見据えて自己の変革を計ろうとするものである.新しい日本地質学会の活動量はこれまでのものと比べて飛躍的に増えることとなるであろう.それはこれまでのような学会構成員のボランティアにのみ支えられた活動量では到底実現しえないものである.責任主体が明確であり,社会的認知をハッキリと得た法人として,法人たる大学や研究機関,企業,行政機関等との関係を構築するものでなければならない.