地学教育

『日本地球惑星科学連合が提案する理科の教育内容―「教養理科(仮称)」に基づいて−』
1)全体の流れ 
日本地球惑星科学連合2006年大会の初日5月14日(日)の午前中に開催され、大学などの研究者、学生、高校教員、中学校教員。小学校教員、博物館学芸員、一般の方など約100名の出席者がありました。
2005年5月に日本地球惑星科学連合の成立と同時に教育問題検討委員会が発足し、その中の教育課程小委員会では、地学教育だけにとらわれない新しい理科教育を検討してきました。その結果、高等学校1年生の必修科目案として、地球人としての科学リテラシーの内容を具体的な項目とした「教養理科(仮称)」を文部科学省に提言しました(HP提言参照)。本プログラムでは提言するにいたった背景、提言を貫く思想、提言を学ぶ上で基礎となる小中学校の理科の教育内容の提案を説明し、このような日本地球惑星科学連合の動きに対して、各界の指導的立場の3人の方々からアドバイスやコメントをいただき、そのあと活発な総合討論を行いました。
 
2)各プログラム
a)  本セッションの趣旨説明(教育課程小委員会副委員長 瀧上豊)
本セッション開催の趣旨を説明しました。
b) 「教養理科(仮称)」作成の経緯(教育問題検討委員会委員長 阿部國廣)
2005年7月の提言提出までの経緯を説明しました。
c) 「教養理科(仮称)」に基づく初等中等教育理科の教育内容の提案(教育課程小委員会委員長 宮嶋敏)
「教養理科(仮称)」の概念に基づき、1年間かけて小委員会が作成した義務教育段階で学ぶべき理科教育内容(地球人としての科学リテラシー)を各学年での項目表(中学校)、チャート図(小学校)とともに提示し、その案にいたった経緯や意義を説明しました。
(内容の詳細は同セッションで配布の小冊子参照。なお、この内容の提言を2006年7月に行いました。HP参照)
d) 『自然史・地球史の視点に立った教育を』(NPO法人防災情報機構 伊藤和明 氏)
元NHK解説委員の伊藤氏の講演は2つの内容でした。ひとつは阪神淡路大震災などの災害は、地球の歴史を考えるとほん僅かな人間の歴史に対する自然からの警告であるということ。2つ目は地球温暖化などの地球環境問題は、本来地球と共生であるべき人類が、産業革命以後地球に負荷を加えた結果であることの講演でした。このような問題は「理科」と「社会」の境界領域に広がる問題であり、「教養理科(仮称)」を学ぶことは重要な柱となりうることをコメントしてくださいました。
e ) 『これまでの理科教育の諸問題と「教養理科(課題)」の提案』  (青森大学大学院 江田稔 氏)
元文部科学省の江田氏は、物・化・生・地の4教科の4単位程度の基礎的理科必修科目の設立の提案をなされました。そのためには内容を厳選し、高度な内容になりすぎないよう、注意しなければいけません。我々の「教養理科(仮称)」は内容が多すぎるとご指摘されました。また、芸術や消費生活などの日常生活と関連付けられるものにする必要があることを強調されました。さらに、教科書の内容には物質観・生命観・宇宙観を取り入れた科学的自然観が現れる必要があることも述べられました。
f) 『これからの理科教育 「教育課程部会」の議論に基づいて』(国立教育政策研究所開発研究部 田代直幸 氏)
これまでの学習指導要領改定の動きはデータ(ペーパーテストによる調査、PISA、TIMSなど)に基づいて行われてきたこと。改定に関しての現在の審議状況。2月の審議経過報告に見られる改定内容の見通し。現在、議論となっている点。など最新の情報を踏まえて、充分にお話してくださり、教育問題検討委員会にとって大変参考になりました。
g) 総合討論 (司会 教育問題検討委員会副委員長 根本泰雄  教育課程小委員会副委員長  山下 敏)
質問票による十数名の方の質問により、活発に討論が行なわれました。討論内容は理科の時間数、「教養理科(仮称)」と理科の他分野との協調性、教員養成の問題、教育現場での総合的な理科の位置付け、大学入試での「教養理科(仮称)」の位置付け、地理との関連、国民に対する理科の必要性の説明、地域社会や保護者における理科の位置付けなど、多岐にわたりました。

 

3)アンケート結果
アンケートの記入時間が短かったにもかかわらず、47名の方がアンケートにご協力してくださいました。 今後の教育問題検討の参考にさせていただきます。
概要は以下のとおりです。 
   
1. アンケートご協力者の所属
 
2. 所属学会   
20もの学協会の方がアンケートに協力して下さいました。
3. このプログラムを何で知ったか  
大部分の方が各学協会のHPか連合のHPから情報を得ていました。
4. 期待度 及び 5.満足度  
多くの方が期待して参加して下さり、満足していただけたセッションになりました。
    
6. 良かったこと
▪いろいろな立場の人(文部科学省・マスコミ・高校教員・大学教員など)の意見が聞け、情報が得られたこと。
▪理科教育に危機感を持っている人が多数いたこと。
▪『教養理科(仮称)』の提言の経緯がよくわかったこと。
▪質疑応答の時間が十分にあったこと。  など
 
7. 不十分・期待はずれだったこと
▪講演者数と講演時間が少なかった。
▪内容が地学に偏っていた。地学分野以外の声も聞きたかった。
▪全体の時間が短かった。
▪保護者や教育現場の生の声をもっと聞きたかった。
▪理科の面白さも議論して欲しかった。
▪問題が広すぎて、問題点が収束していなかった。
▪『教養理科(仮称)』はすばらしいが問題点も多い。  など
 
8. 今回の提案の評価  
現場の教員の方に4)の評価が多く見られました。
    
1) の理由
▪現在の高校生に学んで欲しい重要な内容を整理してある。
▪網羅的でありながら系統性を考えている
▪小・中・高の理科教育について提案したこと
▪理科の大切さをわかってもらえるような視点での提案。  など
 
2) の理由
▪内容は良いが実現性に乏しい。
▪地球惑星分野から提案したこと。     など
 
3) の理由
▪現実性が無い。
▪現行の教科書の内容の並べ替えだけ。  など
 
9. 現在の高校地学の内容について
抜本的な見直した必要と考えている方が、1/3おられたことは、今後の高校地学を考える上で、大いに参考になりました。
 
1) (抜本的見直し)の理由
▪現在は大学へのプレ教育になっているが、現実に内容を合わせる必要がある。
▪地学は残り物状態。地学を選択できる高校を増やす。
▪環境や防災を学べるのは地学だけ。日常生活に結びつく内容にする。
▪理科教育全体で、小・中・高の抜本的見直しが必要。地理とのつながりも大切。 など
 

 

2) A(多少の付け加え)の理由
▪むしろ小・中の内容の位置付けが先。
▪内容より地学教員の指導力・地学履修者数の増加・センター試験対策が先。など
 
3) (現行)の理由
▪センター入試や教育現場の状況、教え方の問題が先。など
    
10. 選択地学の内容検討についてのご意見
▪科学・技術の活用・利用とリンクさせた内容にする。
▪地学Iは文系に学ばせたい内容にする。
▪地理との互換を考える。
▪物理・化学の基本概念とリンクさせる。
▪履修してもらえるような方策の検討。
▪授業の作り方などの整備の提言も必要。
▪“科学的な考え方”、“科学リテラシー”の中身の検討を行う。 など
 
11. 来年度の教育関係の一般公開プログラムのテーマ
▪学習指導要領の改正。
▪生涯学習。社会教育。
▪センター入試。
▪教員養成問題。
▪小・中・高の現状の問題提起。
▪高大連携について。
▪理科教育をテーマに各分野の方の討論。
▪『教養理科(仮称)』のその後。  など
 


 

All Rights Reserved, Copyright 2005- Japan Geoscience Union
日本地球惑星科学連合(ロゴを拡大)