地学教育

『新しい地学教育の試み−地球惑星科学から「高校地学」へ−』
 子供たちの「理科離れ」が叫ばれる中、高等学校では地学履修者の減少が憂えるべき状況にある。原因は、おそらく複合的なものであるが、地学分野の多様性のために関係者間の情報交換が不足しているという指摘が、以前からあった。そこで、昨年の合同大会では、地学教育の現状についての共通理解を深めることを目的として、特別公開セッション「地学教育の昨日・今日・明日 −地球惑星科学は理科・地学離れを救えるか?」が開催された。平日の開催にもかかわらず、延べ約250人が参加し、長時間に渡る熱のこもった講演と討議が展開された。その結果、次の4項目が、今後検討し解決していかなければならない問題として指摘された。
1.地球・惑星科学独自の方法論に乗っ取った「地学」の体系化が必要である。
2.地学を専門とする教員が、小中高ともに不足している。専門教員の養成を図らなければならない。
3.将来のカリキュラムの中での地学のありかたを議論する必要がある。
4.入試制度における「地学」の現状と問題点を、具体的に把握する必要がある。
(セッションの詳細については、「2003年度特別公開セッションの総括」を参照。)

 

 これを受けて、2004年度合同大会では、項目1で指摘された高校「地学」の新たな形を探ることを目的として、特別公開セッション『新しい地学教育の試み−地球惑星科学から「高校地学」へ−』を、大会初日に開催した。昨年11月に、コンビーナから地球惑星科学関係の学会に講演を呼びかけ、7学会からの講演申し込みを受けた。下は、講演募集文の一部である。
 地学の各分野の研究現場が採用している方法のエッセンスは、データと論理を根拠としたモデル形成であるという点については、多くの研究者が同意するところです。しかしながら、「地学教育の昨日・今日・明日」の中で、「地学」は暗記科目という印象を生徒に与えていることが複数の論者から指摘されました。「高校地学」が内包するこの問題の解決を目指して、御講演をしていただける学会(もしくはアウトリーチ等教育担当者)を募集します。 プレゼンテーションを検討していただくに当たっては、セッションの性格付けとして以下の項目にご配慮をお願いします。
 @ データを提示して、モデルにいたる道筋(論理)をお示し下さい。
 A 基礎データは、できるだけ一次データ(高度な処理を施す前の生データ)に近い物をお願いします。
 B 論理が明解で、高校生に理解が可能かどうかをご検討ください。
 C 該当領域におけるモデルの位置づけをお示しください。
 今大会では、小中高校の先生方も参加しやすいよう開催日を日曜日に設定するとともに、文部科学省や教育委員会の後援を受け、希望する参加者には出張依頼書を発行するなど、より参加しやすい環境作りにも配慮した。その甲斐あって、ほぼ1日かけての長時間セッションにもかかわらず、延べ約300名の参加を得た。研究者だけではなく、小中高の先生、教育機関担当者、文部科学省担当者、教材業者などの方々が熱心に講演に耳を傾け、討論することができた。(講演プログラム、ならびに講演内容については、「プログラムと予稿」参照。)

 昨年度、大好評だった講演資料については、今大会でも講演者の皆様の御協力を得て、巻頭カラー8頁を含む総数98頁からなる冊子を用意した。公開セッションの会場や受付などに置いたところ、1000冊以上の冊子を持って帰っていただくことができた。合同大会参加者の約半数がこの冊子を持ち帰った計算になる。冊子がより多くの人々の目に触れ、各方面での「新しい地学教育」への取り組みに役立つことを期待している。 講演募集要項にあるように、本セッションの企画意図は、地学関係の学問領域の特性である「数多くの事実を収集し分析し、その結果をまとめて説得力のある一つの全体像を描く」という方法論を、より鮮明に高校地学に反映させる方法を探ることである。この意図がどの程度実現できたかについて、セッションに参加していただいた方々や、冊子をご覧いただいた方々からご批判をたまわりたい(education @epsu.jp)。  セッション最後の総合討論では、大学入試センター試験に関する要望が決議された。現行のセンター試験においては「地学T」と「物理T」の組み合わせによる受験が出来ない。決議は、これについての改善を訴えるものである。その後、決議の内容が、地球惑星科学関連学会連絡会を通して各学会におろされ、各学会の承認を得た後、関係20学会の連名で、大学入試センター・荒川正昭理事長に提出された。(要望書、ならびに提出に至る経過の詳細については、「地球惑星科学関連学会連絡会ニュース,No. 30,2004年7月」参照。)

講演発表の様子

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