【学習指導要領改訂の基本的な考え方について】
○改正教育基本法等を踏まえた学習指導要領改訂(21p)
改正教育基本法にある教育の目標として、四)自然を大切にし、環境の保全に寄与、(五)我が国と郷土を愛する、とあるが、この2つの目標について具体的に取り扱うのは、理科の地学分野及び地理歴史科の地理分野である。この目標を十分達成するには、現状よりも地学分野と地理分野の学習内容の充実、学習機会の保障が実現されなければならない。
具体的内容や機会保障について提案・要望は、別の項で述べる。
○基礎的・基本的な知識・技能の習得(23、24p)
確実な習得を図る上で、学校や学年間であえて反復(スパイラル)することが効果的な知識・技能に限って内容事項として加えるとあるが、JpGUが既に指摘したように、重要な観点であり評価したい。
また、暗黙知について言及しているが、幼児期や小学校低学年の時期の体験は、その後の発達に大きな影響をもたらす。特に、理科については自然体験が不可欠である。この観点に立って、幼児期・小学校低学年のカリキュラムを編成することを要望する。
具体的な内容については、別の項で述べる。
【教育課程の基本的な枠組み】
○小学校の授業時数(34p)
理科について、中高学年で通算55単位時間の増加を提案していることについては評価できる。しかしながら、相変わらず低学年では生活科を履修することになっている。小学校教員に理科を専門とした教員が少ないこともあり、生活科では理科的な内容が少ない。中学年以降の理科教育を充実させるためには、低学年理科の復活が望ましい。それが叶わぬ場合は、生活科の内容に自然体験的な内容を多く盛り込むことを強く要望する。
○中学校の授業時数(37p)
理科について、2・3学年で通算95単位時間の大幅増加を提案していることについては評価できる。また、選択教科や総合的な学習の時間を減らし、必修教科の教育内容や授業時数を増加させ、教育課程の共通性を高めることを提案していることについても評価できる。
○高等学校の教育課程の枠組み・必履修科目(43、44p)
現行の必履修科目の単位数を増加させないが、教科としての共通性を高める必要がある場合は単位数を増加させ、また、物理、化学、生物、地学の4領域から3領域以上を学ぶという理念を維持するとある。
改正教育基本法で生命や自然を尊重する態度の育成ならびに環境教育の充実が目標に新たに掲げられたことを考えれば、理科については、物理、化学、生物、地学の4領域全てを学ぶことが必要である。
なお、高等学校の理科や社会については、教科が各科目に分かれているが、各科目の専門の教員がいない場合、生徒の希望があっても開講されない場合が多い。選択の主体が生徒にあることから、生徒の希望がある場合には学習の機会を保障するよう、各科目を開講するべきである。
○発達の段階に応じた学校段階間の円滑な接続(48p)
小学校高学年では、外部人材なども活用して専科教員による教育の充実を検討する必要があると述べているが、専科教員の置き方について下記の要望を行なう。
・小学校高学年からではなく、中学年から専科教員による理科の授業を行なうこと。
・専科教員は、週に数時間だけ勤務する現行の理科支援員制度による非常勤職員ではなく、常勤の職員であり、理科教育のリーダーとなる理科を専門とした教員であること。また、このような理科専科教員を各校1名
以上配置すること。
【教育内容に関する主な検討事項】
○理数教育の充実(55,56p)
次代を担う科学技術系人材の育成と共に、国民一人一人の科学に関する基礎的素養の向上が喫緊の課題であると述べているが、この観点は評価できる。
JpGUでは、後者の課題について、「全ての高校生が学ぶべき地球人の科学リテラシー」という捉え方でその重要性を既に指摘している(2005年7月)。特に、地球環境問題の解決は、人類一人一人がこれからどのように生活してゆくのかということに掛かっている。この観点からすると、
非専門家である一般市民にどのような理科教育を施すかが重要な検討課題になる。
地球環境問題を理解するための基礎的素養に地学分野の学習は欠かせない。そこで地学分野の具体的内容の充実や学習機会の保障が行なわれるように強く要望する。
また、教科内容の充実に加えて、教育環境整備も述べられているが、そのことについて次の要望を行なう。
・理科実験助手の配置
・初等教育系大学での理科教育設備の設置の徹底
・実験を中心とした授業の準備を十分に行えるための時間的余裕の確保
○環境教育(66,67p)
改正教育基本法の目標(四)で触れられてはいるが、まず、地球環境問題こそ21世紀に人類が英知を持って克服しなければならない課題であるという認識を最大限に強調する必要がある。さらに地球環境問題の解決に向けて、その基礎となる学習内容、つまり教科・科目には、最優先で時間数を割くことが実現されなければならない。
資源の循環を図りながら地球生態系を維持できるよう、とあるが、資源の循環については現在の高校のカリキュラムでは、理科総合Aで扱われている。この取り扱いには次のような問題点がある。
・ここでの資源の循環とはリサイクルのことを指し、地球システムの一部を構成する物質の循環という視点がない。
・(地下)資源が長い時間を掛けて形成されたという時間の概念が希薄である。また、例えば縞状鉄鉱床が扱われていても、それが地球の歴史においてどのような意味を持つかについて認識が深められない。
・理科総合Aは選択必修科目であるため、一部の高校生しか、資源の循環について学ばない。
物質循環が地球システムの一部をなすという観点は、地学において扱われて、初めて獲得される概念である。環境教育の目標を達成するためには、資源の循環から物質の循環へと認識を広げ、物質の循環を地学分野に明確に位置づけ、その概念を全ての生徒に学ばせる必要がある。
また、環境、資源・エネルギー問題を現代社会の諸課題と捉え、それを克服し持続可能な開発の在り方などについて考察するのは、地理分野で取り扱われるべき内容である。そこで環境教育の目標を達成するためには、全ての生徒に地理分野を学ばせる必要がある。
【各教科・科目等の内容】
○幼稚園・改善の具体的事項(71p)
自然体験や自然との触れ合いを通じて、自然観の育成も目標として入れることを要望する。
○社会・地理歴史分野・改善の具体的事項・小学校(79p)
我が国の国土に関する内容について、環境保全、防災及び地域の伝統や文化、景観、産物などの 地域資源の保護・活用などの観点を重視するとあるが、重要な指摘である。
○社会・地理歴史分野・改善の具体的事項・中学校(80p)
地図の読図や作図などの地理的技能を身につけさせることを一層重視する、とあるが、現状では読図や作図などに関する技能の低下は極めて深刻であり、非常に重要な指摘である。
○社会・地理歴史分野・改善の具体的事項・高校・「地理A」(81p)
防災などの生活圏の地理的課題に関する地図の読図・作図及び地域調査などの作業的、体験的学習を充実し、とあるが、この分野は地理と地学との境界領域であり、地理も地学も学んで初めて有機的に理解できることである。なお、両科目の履修については、別項で具体的提案をする。
○数学・改善の具体的事項(83〜86p)
小中学校間での内容の接続、高校1年での実生活との関連付けについては書かれているが、理科との絡みについては触れられていない。理科との関連付けについて配慮することを要望する。
○理科・改善の具体的事項・小学校(88p)
自然災害などの視点と関連づけて探求したりすることについての指導に重点を置く。・・・(中略)・・・現行で選択課題となっている地震と火山は何れも指導する、とあるが、既にJpGUで提言したことであり評価できる。
なお、現行の指導要領では、海洋についての内容が全く欠如しているが、地球システムにおいて海洋の果たす役割は重要であり、海洋の基礎的な知識を盛り込む必要がある。
○理科・改善の具体的事項・中学校(89p)
第2分野については、(中略)さらに、生命、環境、自然災害などの総合的なものの見方を育てる学習になるように内容を構成し、さらに理科を学ぶことの意義や有用性を実感する機会を持たせる観点から、実社会・実生活との関連を重視する内容を充実させる、とあるが、JpGUでも指摘しているとおり、重要な視点であり評価できる。
○理科・改善の具体的事項・高校(90、91p)
「生物基礎」は細胞と遺伝子、生物の多様性と生態系を取り上げているが、生物をマクロに歴史的に見る視点があり望ましい。
「地学基礎」は宇宙における地球、変動する地球を取り上げているが、空間的な地球の位置づけが取り上げられており、望ましい。
生命科学などの科学の急速な進展に伴って変化した内容については、とあるが、急速に進展したのは生命科学ばかりでなく、地球惑星科学も同様である。生命科学に加え、地球惑星科学を盛り込むことを要望する。
○生活科・改善の具体的事項(91p)
中学年以降の理科の学習を視野に入れて、自然の不思議さや面白さを実感するよう、とあるが、科学的な見方、考え方の基礎を養う観点から重要な指摘であり評価できる。
現行の生活科では地学的現象に触れる機会に乏しいが、具体的には、雲、霜柱、雪、風、太陽、月、星、石ころ、砂、どろなどや、それにまつわる遊びや行事(七夕、お月見)のような活動を取り入れるよう要望する。
また、生活科を指導する教師の力量の向上を要望する。
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