プレスリリース

 

平成18年7月27日

 

中央教育審議会

会長 鳥居 泰彦様

 

 

すべての児童・生徒が地球人としての科学リテラシーを身に付けるために
− 義務教育段階での「理科」のあり方に関して −

 

   日本地球惑星科学連合

    代表 浜野 洋三

 

 

提言

 

 義務教育段階ですべての児童・生徒が地球人として必要とされる科学リテラシーの基礎を身に付けられるようにするため,下記の提言をします.

 

 
(1)地球人として必要とされる科学リテラシーの基礎を身に付けられるようにするため,義務教育段階における「理科」の学習内容を保障すること*1)

  その中で,現行では欠如,著しい不足,不適当な取り扱い方をしている内容,項目,取り扱い方のうち,地球惑星科学に関する事項は次の通りです.
 
・義務教育段階,特に前期中等教育段階(中学校等)での海に関する内容を充実させること.

・小学校段階において地震も火山もともに学ぶ構成とし,前期中等教育段階(中学校等)において多くの自然災害に関して自然との共生の視点も交えて学べる内容にすること.


(2)現在の義務教育段階における「理科」の内容に加え,上記を達成するため,義務教育段階における「理科」の授業時間数を増加させること.

・小学校1,2年次の「理科」を復活させることが望ましいが,復活がない場合でも「生活科」における小学校中学年以降の「理科」学習の基礎となる自然体験等を増やすこと.



*1) 時間数の十分な確保が可能である場合の内容試案を参考資料として別添します.なお,別添資料の内容は,日本地球惑星科学連合内にて保障すべき「理科」学習内容を検討するための一次資料であり,本参考資料に記されている内容が現時点における日本地球惑星科学連合内で決定された統一見解を示している訳ではありません.
 

 

提言の趣意

 

 21世紀を生きる私たちは,オゾン層の破壊や地球温暖化などの様々な地球環境問題,地震・火山・台風・土石流等による自然災害への対応,資源の枯渇やエネルギー問題等,人類にとって重要な数多くの解決すべき課題に直面しています.これらの課題を解決していくためには,私たちすべてが必要な科学知識,科学リテラシーを学び,豊かな自然観を身に付け,地球上における自然と自然の一部である私たち人類との共生のため,科学的思考に基いて自ら考え行動できるようになることが必要です.これらの科学知識,科学リテラシーは,主として学校教育において育成をはかる必要があります.特に,基礎的な必要最低限の科学知識,科学リテラシーは義務教育段階終了までに習得しておく必要があります.

 一方,子ども達を取り囲む生活様式などの様々な環境変化にともない,「理科」の原点である自然観察等の具体的な自然体験の欠如が問題となっています.こうした変化によって,学校で学ぶ「理科」の内容は,普段の生活を営む中で「理科」を学ぶことが何の役にたつのか,「理科」を学んで将来何の役にたつのか,といった「理科」学習の大切さに関する子ども達の意識を低くしているという問題が指摘されています.「理科」の学習内容が実生活と深く関わっており,実生活の中で活用されていることが感じられる「理科」の内容としなければなりません.しかしながら,これまでの「理科」の内容は,ともすれば物理・化学・生物・地学の領域ごと,さらに校種ごとに決められ,初等・中等教育全般を見通して捉えられていなかったという問題があります.

 そこで,日本地球惑星科学連合は,「理科」の教育目標として初等・中等教育全体を見通して,次の3つを設定しました。
 1)宇宙,地球,生命は長い時間をかけて現在の姿になっている事を知り,時間的・空間的広がりの中における私たちの位置付けを考えることができる人になること.
 2)物質,生命,エネルギーといった自然科学の基礎的な概念についての理解を通して,全ての自然現象は相互に関連していることを知る人になること.
 3)自然と自然の一部である人類との共生について科学的な態度で考え,総合的に考察できる人になること.


そしてこれらの教育目標を達成するために,次の課題意識を持ち,これからの「理科」のあるべき姿,内容に関して検討をはじめました.

 1)子ども達の自然あそびや自然観察等の具体的な自然体験の欠如に対応すること.
 2)「理科」を学んで将来何の役に立つのか,「理科」が社会の中で役にたっているのか,という子ども達の疑問へ明確に答えられる内容とすること.
 3)児童・生徒の発達段階や教育内容の適時性に配慮し,初等・中等教育全般にわたって構造化をはかり,あわせて学習内容の偏りが生じないようにすること.
 4)教育内容の各項目相互の関連に十分な配慮を行い,内容の繋がりが理解できる構造とすること.

 検討の結果,現行の義務教育段階における「理科」において,基礎的な科学リテラシーの面からも絶対に必要な内容であるにもかかわらず抜けている地球惑星科学に関連した内容として,次の3点を学習指導要領において追加する必要があるとの結論を得ました.

・現行課程では,「海」に関する内容の取り扱いが義務教育段階において非常に貧弱である.よって,義務教育段階,特に前期中等教育段階(中学校等)における「海」に関する内容の充実が必要である.

・現行課程では,小学校段階において「地震」か「火山」のどちらかを選択して学習することになっている.一方,この両者は科学的視点から密接な繋がりを持っており,あわせて日本の地勢を考えた場合にも,両者は私たちの生活と密接に関係する自然現象である.よって,小学校段階において「地震」も「火山」も両方同時に学習する構成とする必要がある.

・現行課程では,中学校段階において
“「災害」については,地域において過去に地震,火山,津波,台風,洪水などの災害があった場合には,その災害について調べること.”
となっており,自然災害全般にわたって学習する必要はない構成となっている.しかしながら,こうした取り扱い方は毎年多くの自然災害に直面している現状と乖離している.よって,多くの自然災害に関して自然との共生の視点も交えて学習する構成とする必要がある.

(これらを含み,前述した教育目標と課題意識をもった義務教育段階における「理科」の授業時間数および内容試案を資料として別添します.)

 あわせて,これらの学習内容を追加する場合,現行の学習内容から削除可能な内容を義務教育段階の「理科」全般から見つけることができなかったことから,義務教育段階における「理科」の授業時間数増加が絶対必要であるとの結論を得ました.

 以上から,日本地球惑星科学連合はここに本提言を提出することとします.

 

 

本提言が取り入れられた場合に期待される成果
 

 提案する提言が取り入れられた「理科」を履修した児童・生徒には,次のような科学リテラシーの基礎に関する学習効果を期待することができます.
 
・地球表面の約7割を覆う海の学習も取り入れられることで,生物の生存基盤である地球環境の大概を理解することができるようになり,現在直面している地球環境問題などを自ら考察し,総合的に解決策を考える態度とその基礎的な能力を備えた人となることができるようになる.

・自然災害についての多様な知識と考え方を知ることができるようになり,様々な局面での自然災害に関わる危機管理能力の基本を身に付けることができる.
 

追記
 義務教育段階において必要と考える「理科」の学習内容と,その学習内容に基づいてこれらを学ぶために必要であると考える学習時間との案を参考資料として示します.今後,設定した教育目標達成のために過不足の内容の検討を行い,あわせて各内容の繋がりや児童・生徒の発達段階にあわせた配当の検討を引き続き行っていく予定です.
 また,日本地球惑星科学連合は,小学校教員および中学校「理科」教員に関する教員養成,現職教員の研修のあり方に関しても議論,研究を行っており,近いうちにこのあり方に関する考えを表明できるよう作業を進めています.
 

 

                           

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