地学教育

 

文部科学省  初等中等教育局 教育課程課 教育課程企画室 御中  

 

前略,貴省にて行われております“中央教育審議会教育課程部会「審議経過報告」に対する意見募集について”の意見募集に対して,4つの意見を送らせて頂きます.

 

提出者 

日本地球惑星科学連合 (加盟学協会数38(加盟学協会一覧は末尾に記してあります))

代表   浜野洋三 東京大学大学院理学系研究科教授     

日本地球惑星科学連合 教育問題検討委員会

委員長  阿部國廣 川崎市立西有馬小学校教諭

副委員長 根本泰雄 大阪市立大学大学院理学研究科(大学教育研究センター兼任)講師

他委員49名     

日本地球惑星科学連合 教育問題検討委員会 教育課程小委員会      

委員長  宮嶋 敏  埼玉県立本庄高等学校教諭      

副委員長 瀧上 豊  関東学園大学教授  

副委員長 山下 敏  埼玉県立深谷第一高等学校教諭  

他委員18名

 

連絡先 〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1     

東京大学大学院理学系研究科内 日本地球惑星科学連合事務局     

谷上美穂子  電話 03-5841-4291  Email office@jpgu.org     

もしくは     

〒558-8585 大阪市住吉区杉本3-3-138     

大阪市立大学大学院理学研究科・理学部 生物地球系専攻 環境地球学講座 都市地盤構造学分野

根本泰雄   電話 06-6605-3194 Email nemo@sci.osaka-cu.ac.jp

 

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● 意見その1  

1 教育課程をめぐる現状と課題   

  (2) 現行の学習指導要領の考え方   

  (3) 現行の学習指導要領下の学校教育の状況と検討課題  

に関して

 

意見内容:

  学校の先生方に,学習指導要領のねらい,到達目標を判りやすく伝えるため,学習指導要領と教科書とを結ぶ橋渡し的な役割をする冊子のような資料作成を行って頂きたく思います.

 

理由:

 これまでの学習指導要領では,その意図する教育のねらい,学習の到達目標を具体的に読み取ることが難しいと思います.また,特に「理科」では,教科書と照らし合わせても,教科書会社が作成している教師用指導書と照らし合わせても,教育の目標,学習の到達目標を具体的に読み取ることは難しいのが現状です.例えば,ニュージーランドでは,Science in the New Zealand Curriculum と教科書との橋渡し的な役割をするMaking Better Sense of Planet Earth and Beyond という冊子をMinistry of Education が各学年段階向けに作成しています.すなわち,本意見は,この Making Better Sense of Planet Earth and Beyond に相当する資料作成を日本でも行うことの提案であり,このような資料を作成することで,より的確に教育の目標,学習の到達目標を各教員に伝えることが可能になると考えます.

 

意見その2  

2 教育内容等の改善の方向   

(1) 人間力の向上を図る教育内容の改善    

     2  具体的な教育内容の改善の方向    

    1) 国家・社会の形成者としての資質の育成等    

    2) 国語力・理数教育・外国語教育の改善    

    3) 総合的な学習の時間などの改善  

のうち,理数教育に関する箇所に関して

 

意見内容:  

1) 地球人として生きる(例えば,地球環境問題に対してリーダーシップをとれる人や,その問題の重要性を理解して積極的に協力できる人となる)ために必要な科学リテラシーを十分身に付けさせる,とする教育目標を加えて頂きたく思います.  

2) 「理科」に関して,特に,高等学校段階において,提言として昨年提出させて頂いた「教養理科(仮称)」のように,物理・化学・生物・地学の全領域にわたってバランスの良い履修ができるようにして頂きたく思います.その上で,「理科」の選択科目を履修させるようにして頂きたく思います.  

3) 科学リテラシーと情報リテラシーとの融合がはかれるような学習を「総合的な学習の時間」で行うべきであり,そのためにも「総合的な学習の時間」の教育指針をより具体的に明示して頂きたく思います.

 

理由:

 現在の高等学校学習指導要領では,高等学校1年次に「理科総合A」を履修し,高等学校2・3年次に「物理」「化学」を履修した生徒は,「生物」「地学」に関する学習が中学校段階のレベルで終わったまま高等学校を卒業することになります.「理科総合B」の履修後に,「生物」「地学」を履修した生徒の場合も状況は同様といえます.このような学習形態で現代を生きるために必要な科学リテラシーが身に付くとは思えません.地球環境問題を自ら考えられる人となるためには,物理・化学・生物・地学の全領域に渡ったバランスよい「理科」の学習経験が必要であるからです.よって,教育目標として明確に地球人として生きるために必要な科学リテラシーの育成を示し,内容的に偏った学習とならないよう,全領域にわたって履修できる科目の設定や制度にするべきであると考えます.

 また,現在の小・中学校学習指導要領では,科学リテラシーを身に付けるために必要な要件の一つである環境に関わる学習内容が不足していると考えられます.近年の地球温暖化をはじめとする地球スケールから地域スケールにいたるまで,さまざまな環境問題が提起され,国民の関心も非常に高くなってきています.あわせて,日本では,世界遺産のうち自然遺産に屋久島,白神山地,知床という3地域が登録されていますが,その価値を特に初等教育段階で教えられることは少ないのが現状です.現行の学習指導要領では初等教育段階において環境問題の基礎的事項が断片的に取り上げられているものの,総合的な環境学習を行う機会が十分であるとはいえません.そのため,次期学習指導要領においては,総合的な環境学習を行う機会を与えられる内容とする必要があると考えます.

 

意見その3  

2 教育内容等の改善の方向   

      (2) 教育課程の枠組みの改善    

      1  指導方法,授業時数の見直し等    

      2  発達や学年の段階に応じた教育課程編成や指導の工夫    

     3  学校週5日制の下での学習機会の充実   

のうち,理数教育に係わる内容に関して

 

意見内容:

1)  中等教育終了段階において身に付けるべき最低限の科学リテラシーを学べるようにするため,初等・中等教育段階における「理科」の学習時間数のさらなる確保をして頂きたく思います.

2) 実験や野外観察を十分に行えるようにするため,初等・中等教育段階全てにおける「理科」でのTT制度の確立,実験助手制度の確立,TTや実験助手と一緒に進める授業法に関して指針を示す等をして頂きたく思います.

3) 「総合的な学習の時間」を月1回土曜日にまとめるなど,より有益に学習が進められる学習時間の設定をして頂きたく思います.

 

理由:

   算数・数学や理科について,発達や学年の段階に応じた反復(スパイラル)の中で確実に定着させることができるよう教育内容の工夫を行うことが必要であるとの記述に賛同致します.このような学習の中で,理数系の各教科・科目の時数は,求められる科学リテラシーの育成をするためには現行の時数では少なすぎると考えられます. 例えば,認知過程の最近の研究成果からもわかる通り,「総合的な学習の時間」を身のあるものとするためには,考えるための基本的な知識が重要であるといえます.義務教育段階において,「総合的な学習の時間」の時数に比して基礎力・基礎知識を身に付ける「理科」や「社会」の時数が少なすぎるといえます.本来の意味での「総合的な学習の時間」とするためにも,特に小学校における「理科」や「社会」の時数を増やすことが必要です.

   また,じっくりと学習に取り組むことが要求される「総合的な学習の時間」は,設定テーマによっては,半日あるいは丸1日以上かけてそのテーマで学習に取り組む必要があると考えます.現在の高等学校学習指導要領には,第5款の1に「,,,必要がある場合には,各教科・科目の授業を特定の学期又は期間に行うことができる。」とあるため,いわゆる「まとめ取り」の形でまとまった時間に「総合的な学習の時間」を配当することができますが,現在の小・中学校学習指導要領には同様の規定がないため,いわゆる「まとめ取り」の形でまとまった時間を配当して「総合的な学習の時間」とすることができません.例えば,小・中学校において,月1回の土曜日を「総合的な学習の時間」に充て,月曜日から金曜日は教科学習等に専念できるようにする,夏休みや冬休み等の1週間を用いて「統合的な学習の時間」を行い,通常の学期期間は教科学習等に専念できるようにする,などの工夫が各学校で可能となる学習指導要領の記述にすることが求められます.この例は,地域の人材活用や,大学等との連携教育を考えた場合,土曜日や夏休み期間などに「総合的な学習の時間」を集中させる方が運用しやすいと考えられることにもよります.

  「理科」教育の基本の一つには,子どもたちが与えられた事柄を単に受け入れるだけではなく,自然の中から自ら真実を見つけ出す能力を養うことがあると考えます。そのためにも,「総合的な学習の時間」と組み合わせることなども考えられる制度を設定し,まとまった時間をとって子供たちを自然に連れ出し,じっくり自然と対話する機会を設定できるようにすることも必要です。このような機会を実現するためには,小学校高学年における理科専科の配置,小〜高でのTTの導入や実験助手を活用するとともに,専門家や地域の人々の協力を得ることが必要なため,このような授業を展開できる枠組みを作って頂きたく思います.

 

(例:小学校3〜6年の場合    

月1回の土曜日6時間(終日)や4時間(半日)を「総合的な学習の時間」とする,    

年間時数 (6×3[月]=18時間)+(4×8[月]=32時間)=50時間    

もしくは,夏休み期間1週間分等を「総合的な学習の時間」に充てる,

年間時数 7×5=35時間    

などを実施し,現行の「総合的な学習の時間」105〜110時間を,例えば,「理科」に35時間,「社会」に35時間,「英語」に35〜40時間と振り分ける.)

 

意見その4  

3 学校教育の質の保証のためのシステムの構築   

(2) 学校教育の質の保証  

に関して

 

意見内容:

  教員養成,現職教員の研修を充実させ,学術学協会主催大会(例えば,日本地球惑星科学連合合同大会)に教員が参加することが推奨される体制を整える必要があると考えます.

 

理由:

  例えば,小学校教員養成において現行の制度(教育職員免許法施行規則)では,4年制大学にて“教育課程及び指導法に関する科目”として「理科」に関して2単位以上を取得し,“教科に関する科目”の単位として「理科」に関する科目から単位を取得せずに卒業,小学校教諭1種免許状が取れる状況にあります.小学校教員養成課程へは文系からの進学者が大多数を占める中,大学で最低2単位しか「理科」に関係する内容を履修しないで小学校にて教えることができる現行の教員養成制度に無理があると考えます.実際には,「理科」に関わる科目を最低2単位は課している大学が多いとはいえ,小学校で「理科」を教えるための能力を身に付けるには少なすぎる単位数であると考えます.これは「理科」に限ったことではありませんが,小学校教員養成課程へ入学するための入学試験における入試に課す科目と併せて,教員養成課程で課す「理科」に関する単位数を検討する時期にあると考えます.小学校教員養成課程の入試に対して,日本地球惑星科学連合が提言として昨年提出した「教養理科(仮称)」を受験必修科目とするといった措置を講じることも検討に値すると考えます.少なくとも,算数・理科嫌いのまま教員養成系大学を卒業し,そのまま小学校で教えることが生じない教員養成課程における大学教育が行える新たな制度作りは必要であるといえます.

    また,現職教員に対して,意見その1と重複する部分もありますが,学習指導要領の理念や教育目標をよりよく実現するために,現職教員の研修を受ける機会をより一層充実させることが必要と考えます.「理科」においては,小・中・高の先生方が直接に先端科学の現場の熱気に触れることが,科学の楽しさを児童・生徒に伝えるうえで大変有効なことと考えられます.現状においても,各地の教育センターなどによって現職教員の研修は行われていますが,その内容を鑑みると,最先端の科学に触れる機会が多いとは言えない現状にあります.最先端の科学に触れるために,学術学協会主催の大会に参加することはその一つの機会といえます.また,日本地球惑星科学連合に加盟している諸学協会をはじめとする各分野の多くの学協会は,もっている資源を教育利用のために活用して頂きたいと考えています.そのために,大学等の研究者等による出前授業等の活動を引き続き継続していくことも大切ですが,特に「理科」の場合,小・中・高等学校の先生方が学術学協会主催の大会に参加することは,研修の一つとして有効な方法であると考えます.また,学術学協会としても,学術研究者,院生,学部生,小・中・高等学校の教育者等との交流は,各研究分野の活性化に欠かせないと考えており,これまでにも日曜日や祝日等の休日に講演会の開催や高校生のためのセッション開催など,工夫を重ねてきました.しかしながら,目下のところ,小・中・高等学校等の現職教員が,教育センター等で行われる研修以外に職場を離れて自己研修を行うことは,休日の参加としても容易ではない現状にあります.すなわち,現状では研修の一環として現職教員が学術学協会主催の大会に参加することは非常に困難な状況が続いています.そこで,貴省におかれましても,現職教員が学術学協会主催の大会に参加する等の自発的な研修活動への支援と,その条件整備を進めて頂きたく思います.

 

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以上です.よろしくお取り計らい頂けますよう,お願い申し上げます.           草々

 

追伸

  なお,小学校「理科」,中学校「理科」,昨年提言として提出した「教養理科(仮称)」,高等学校の地球惑星科学に関連する科目(これまでの「地学」),および「総合的な学習の時間」における自然災害など地球惑星科学に関連深い内容をテーマとした学習の学校教育でのあるべき姿に関する具体的な内容は,日本地球惑星科学連合 教育問題検討委員会 教育課程小委員会を中心として日本地球惑星科学連合でも検討しています.次期学習指導要領改訂に向けて,これらの教科,科目に関する教育内容を決める過程で,日本地球惑星科学連合の意見も参考にして頂きたいと考えます.また,教員養成や現職教員の研修に関して検討する小委員会を立ち上げる準備を進めています.両問題に関して日本地球惑星科学連合および同連合 教育問題検討委員会では協力をしたいと考えておりますので,連絡・意見打診を是非お願い致します.

 

資料

日本地球惑星科学連合加盟学協会一覧(加盟学協会数38,構成会員数約40,000名)

 

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日本鉱物学会 日本国際地図学会 日本古生物学会
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日本測地学会 日本堆積学会 日本第四紀学会
日本地学教育学会 日本地下水学会 日本地球化学会
地球電磁気・地球惑星圏学会 日本地形学連合 日本地質学会
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地理情報システム学会 東京地学協会 東北地理学会
日本粘土学会 物理探査学会 日本陸水学会
日本リモートセンシング学会 日本惑星科学会  

                                                             

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