プレスリリース

 

平成17年7月29日

 

中央教育審議会

会長 鳥居 泰彦様

 

 

すべての高校生が学ぶべき地球人の科学リテラシー
− 高等学校「理科」における全員必修科目の創設とその内容に関する提言 −

 

   日本地球惑星科学連合

    代表 浜野 洋三

 

 

提言

 すべての高校生が地球人として必要な科学リテラシーを学べるようにするため,表1に示す内容の教科理科科目「 教養理科(仮称)」(4単位分以上)を創設し,これを全員必修の科目にすることを提言します.

 

 

提言の趣意

 21世紀を生きる私たちは,地球温暖化や環境ホルモン等の様々な地球環境問題,地震・火山・台風等の自然災害の問題,資源の枯渇やエネルギー問題など人類にとって重要な数多くの課題に直面しており,これらの問題を解決していかなければなりません.そのためには,一部の専門家だけではなく,私たち皆が必要最低限の科学的知識と科学リテラシーを学び,豊かな自然観を身につけ,地球との共生のために自ら考え行動できるようになることが必要です.ところが現代は,むしろ,人々の自然からの乖離が強く懸念される時代です.

日本地球惑星科学連合(別紙),我々人類と地球の未来のために,このような現状の改善方策として,後期中等教育段階において,地球人として全ての人が身に付けるべき必要最小限の科学リテラシーを選定した新科目の創設を提言します.

 

また,このような基本的科学リテラシーを身に付けた上で,さらなる理科の選択科目を履修することが,卒業後に職業に就く者,理系進学者,文系進学者,いずれを問わず重要です.

なお,本科目の目標を達成するためには,少なくとも4単位が必要であると考えます.

 

 

 

 

表1 高等学校教科「理科」で全員必修とすべき新設科目(4単位)にて取り扱う項目に関する提案内容

(提案する)科目名:教養理科

大項目 中項目 中項目に含まれる小項目もしくはキーワード
自然の探求 地球人としての科学リテラシー  
宇宙の構成 宇宙の誕生と進化 時間と空間のスケール,構造と進化,太陽系,核融合,など
元素の誕生 原子の構造,周期表,原子・分子とイオン,放射性元素,など
力とエネルギー 運動のあらわし方,仕事とエネルギー,重力と万有引力,運動方程式,など
地球と生命 地球の誕生 内部構造,構成物質,大気,海,など
地球と生命の共進化 生命の誕生,生物の進化と絶滅,光合成とオゾン層,人類の誕生,など
生命のしくみ 細胞の働きとエネルギー,遺伝子とDNA,生殖,個体発生と系統発生,など
物質の変化と循環 物質の変化 電子配置と化学結合,化学反応式,中和反応,酸化還元,など
物質の循環 状態変化,水の循環,炭素循環,窒素循環,など
地球の資源 物質の濃集,エネルギー資源,鉱床,非金属資源,など
活動する地球 変動の記録 地形の形成,地層の形成,気候変動,自然景観,など
プレートと地震・火山 プレートテクトニクス,日本列島,火山活動,地震活動,など
海洋と大気の役割 太陽放射,地球の熱収支,海洋と大気の相互作用,気象,など
自然との共生 生物の多様性と環境 生態系,環境と生物分布,極限環境の生物,絶滅危惧種,など
環境問題 地球温暖化,環境ホルモン,環境汚染,オゾン層破壊,など
自然の恵みと災害 自然災害,ハザードマップ,洪水と平野の形成,火山と資源,など
科学と社会の関わり 科学と技術,自然と社会のバランス,循環型社会,科学リテラシーと防災,など
課題研究 課題の選び方  
探求の方法  
まとめと発表  

 

 

 

「教養理科(仮称)」作成にあたり目標とした点

私たちは次のような教育目標に則り,提案する「教養理科(仮称)」の学習項目案(表1)の作成を行いました.

1. 宇宙,地球,生命は長い時間をかけて現在の姿になっている事を知り,時間的・空間的広がりの中における人類の位置付けを考えることができる人になること.

 

2. 物質,生命,エネルギーといった自然科学の基礎的な概念についての理解を通して,全ての自然現象は相互に密接に関連していることを知る人になること.

 

3. 自然との共生について,科学的な判断および総合的な考察ができる人になること.

 

 

期待される成果

 本科目を履修した生徒には,次のような科学リテラシーの学習効果を期待することができます. 

1. 生命と地球環境のかかわりを時間的かつ空間的に学習することで,人類の生存基盤である地球環境の現在の有様を理解することができるようになる.

 

2. 科学の基礎的な概念を学習することで,人類が直面している地球環境問題などを自ら分析し,総合的に解決策を考える態度と能力を身につけることができる.

 

3. 自然災害についての科学的な知識,考え方を身につけることで,様々な局面での危機管理能力を持つことができる.

 

4. 科学と技術とのかかわり,およびそれらと社会との関係についての,より深い洞察が可能になる.

 

                              以上.

 

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