地学教育

 

平成18年度(2006年度)以降の
大学入試センター試験「地学」出題方式

(「理科」内でのグループ分け)に関する要望書

 

 

20041210

 

文部科学省高等教育局

局長  殿

 

 

地球惑星科学関連学会合同大会

共催・協賛学会

各学会長・理事長一同

 

 

資源地質学会

(会長)

鹿園直建

慶應義塾大学理工学部

水文・水資源学会

(会長)

池淵周一

京都大学防災研究所附属水資源研究センター

地球電磁気・地球惑星圏学会

(会長)

藤井良一

名古屋大学太陽地球環境研究所

日本応用地質学会

(会長)

井上大榮

電力中央研究所

日本海洋学会

(会長)

今脇資郎

九州大学応用力学研究所

日本火山学会

(会長)

渡辺秀文

東京大学地震研究所

日本岩石鉱物鉱床学会

(会長)

小畑正明

京都大学大学院理学研究科

日本気象学会

(理事長)

廣田 勇

京都大学大学院理学研究科(名誉教授)

日本鉱物学会

(会長)

藤野清志

北海道大学大学院理学研究科

日本地震学会

(会長)

大竹政和

東北大学大学院理学研究科名誉教授

日本水文科学会

(会長)

森 和紀

日本大学文理学部

日本測地学会

(会長)

竹本修三

京都大学大学院理学研究科

日本第四紀学会

(会長)

熊井久雄

大阪市立大学大学院理学研究科(名誉教授・客員教授)

日本地学教育学会

(会長)

下野 洋

国立教育政策研究所(名誉所員)

日本地下水学会

(会長)

佐倉保夫

千葉大学理学部

日本地球化学会

(会長)

田中 剛

名古屋大学大学院環境学研究科

日本地質学会

(会長)

齋藤靖二

国立科学博物館(名誉館員)

日本天文学会

(理事長)

松田卓也

神戸大学大学院理学研究科

日本陸水学会

(会長)

小倉紀雄

東京農工大学農学研究科

日本惑星科学会

(会長)

水谷 仁

宇宙航空研究開発機構

 

 

 

   本要望書に関する連絡先:

   〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1

   東京大学理学部1号館719号室

   地球惑星科学関連学会連絡会事務局

   電話:03(5841)4291 FAX : 03(5800)6839

   

 


 

 

要望内容

 

 

平成156月に発表された平成18年度大学入試センター試験の「理科」の実施方法に対して危惧の念を抱いており,次のような改変を要望します.

 

 「地学I」が「物理I」と同じグループに入れられているため,「地学I」と「物理I」を組み合わせて受験できないことを大変に危惧しています.

 

受験科目として提供される6科目のうち,少なくとも「物理I」,「化学I」,「生物I」,「地学I」の4科目から任意の組み合わせで2科目ないしは3科目を受験できる制度に改変することを強く要望します.

 

 

 


 

要望書提出の趣意

 

 平成11年(1999年)告示の学習指導要領に基づく教育が平成15年(2003年)度から高等学校において年次進行の形で実施されています.そのため,平成18年(2006年)度以降の大学入学試験は本学習指導要領に基づいて行われます.これにあわせて,平成15年(2003年)6月に平成18年(2006年)度大学入試センター試験の出題科目および出題方法等の発表がなされました.高等学校での「地学」教育に多大なる影響を与える大学入試,特に大学入試センター試験の出題方法等について,高等学校科目「地学」の教授内容に関連した分野の各学術学会は危惧の念を抱いています.その理由を述べるとともに,早急なる大学入試センター試験の改善を要望したく,ここに本要望書を提出させて頂く次第です.

 

 

要望内容およびその理由

 

平成18年(2006年)度大学入試センター試験の「理科」は以下のように行われることになっています.

 

出題科目は「理科総合A」,「理科総合B」,「物理I」,「化学I」,「生物I」及び「地学I」の6科目とし,次のように3グループに分け,それぞれのグループにおいて,1科目を選択解答させる.

グループ㈰ : 「物理I」,「地学I

グループ㈪ : 「理科総合A」、「化学I

グループ㈫ : 「理科総合B」、「生物I

 

 「地学I」がグループ㈰として「物理I」と同じグループに入れられているため,「地学I」と「物理I」を組み合わせて受験できないことを大変に危惧しています.提供される6科目のうち,少なくとも「物理I」,「化学I」,「生物I」,「地学I」の4科目から受験生が任意の組み合わせで2科目ないしは3科目を受験できる制度に改変することを強く要望します.

 

地球惑星科学に進学を希望する生徒が「地学」と「物理」とを高等学校で履修することは適切なことです.大学で地球惑星科学を学ぶ上で,「地学」を高等学校卒業までに身に付けておくことは必要です.同時に,「物理」が地球惑星科学を学ぶ上で基礎として重要な科目であることも事実です.実際,高等学校時代に「地学」と「物理」との選択を希望する理系の生徒が存在しています.また,同様の理由で「地学」と「化学」,あるいは「地学」と「生物」を高等学校までに履修しておくことが望ましい分野も地球惑星科学には存在しています.

すなわち,高等学校で「地学」と「物理」とを履修した場合に,大学入試センター試験でこの組み合わせで受験できないグループ分けは根本的におかしなシステムです.各々の科目を任意の組み合わせで受験できる制度に早急に改変する必要があります.

「地学」を開講している高等学校が約3割,理系の生徒が「地学」を履修している割合が数パーセントとなっている現実があるのは事実です.「地学」の開講数が減少し,「地学」を選択する生徒が減少している理由として次の事柄があげられます.

 

・高等学校で「地学」系の教員採用数が少ない

・理学部等の一部の学部・学科を除くと,個別の入試科目として「地学」を設定していない大学が多い

大学入試センター試験の「理科」のグループ分けが適当でなかった

 

今回新たに示された上記のグループ分けでは,大学受験生が大学入試センター試験教科「理科」2科目以上で受験する場合,「物理」・「地学」の組み合わせを選択できません.その結果,このグループ分けはこれまで以上に高等学校での「理科」の履修に制限を課すことになります.そして,高校生の「地学系分野」の自然科学に対する興味の芽を潰し,「地学」開講数のさらなる減少を呼び,「地学」系教員の採用が抑制されることが予期されます.また,「化学」,「生物」がそれぞれ別々のグループに配置されているのに対して,「物理」・「地学」を選択できない今回のグループ分けは,「化学」,「生物」と比べて現状の履修者,受験者数が少ない「物理」,「地学」の両科目が軽視された結果とも考えられます.

学校教育科目「地学」は高校生にとって内容的に選択したくない,勉強したくない科目なのでしょうか.「地学」を高等学校時代に面白そうだから勉強してみたいという生徒がかなりいることは,これまでの研究結果から確かなことです.しかしながら,高等学校での教科「理科」における「科目」選択は大学入試制度によって次のような制約を受けています.すなわち,「地学」を選択することは受験可能な大学の選択肢を狭めることになります.そのため,特に理系進学希望の生徒は内容の面白さや興味では履修「科目」を選ばず,当面の目標である大学入試のために必要かどうかという,教育の本質とはかけ離れた理由で「理科」の科目選択を行っています.一方,高等学校側でも,「地学」と「物理」とで大学入試センター試験の受験ができないようであるなら,「地学」を開講せずに,入試科目の組み合わせとしてより汎用性がある組み合わせだけを開講する動きが加速されることが予想されます.つまり,大学入試センター試験の教科「理科」のグループ分けが,大学受験による高校教育のひずみをさらに助長することが危惧されます.

 それでは,高等学校段階までに「地学」や「地学的分野」の教育は不要なのでしょうか.今日,京都議定書などにみられるように,21世紀の持続的な社会の発展のためには,教育に基づく自然観の形成と地球変動に関する認識が,国政,企業活動から市民生活レベルにまで求められています.高等学校科目「地学」は,このような要請に応える科目として重要な位置を占めます.他の科目では得られにくい内容を多数含んでいるからです.すなわち,大学や大学院で地球惑星科学関連の学習・研究を希望する生徒にとってだけ高等学校科目「地学」が必要なのではありません.新学習指導要領にも示されている,これからの時代に求められる「生きる力」を育むためにも多くの生徒にとって大切な科目です.大学入試センター試験の「理科」のグループ分けが高校教育に影響を与えることによって,その学習の機会を高校生から奪ってしまうとしたら,関連分野の研究者・教育者として非常に残念な事態と言わざるを得ません.

 

 以上の理由から,大学入試センター試験で「地学I」を選択した場合に「物理I」が選択できないグループ分けを早急にやめ,受験生が大学入試センター試験「理科」で提供される6科目のうち,少なくとも「物理I」,「化学I」,「生物I」,「地学I」の4科目から任意の組み合わせで2科目ないしは3科目を選択して受験できる制度へ早急に改善することを,ここに強く要望する次第です.

 

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